「便秘改善のツボ」がなぜ手にあるのか…じつは、あまりに精緻な人体の「メカニズム」が関係していた!
私たちにとって身近なツボや鍼灸、漢方薬。近年、そのメカニズムの詳細が西洋医学的な研究でも明らかになってきています。例えば<手のツボが便秘改善に効くとされるのはなぜ><ツボに特徴的な神経構造が発見された?><漢方薬が腸内細菌の「エサ」になっている?>など、興味深い研究が数多く報告されているのです。最新の研究では一体どんなことが明らかになっているのでしょうか。 【画像】「便秘改善のツボ」、合谷の場所を詳しく知る! そんな東洋医学のメカニズム研究の最前線をとりあげ、新聞やYouTubeなどでも紹介された話題の一冊、『東洋医学はなぜ効くのか』(講談社ブルーバックス)。コミカライズに向けたコンテストも開催されている本書から注目のトピックをご紹介していきます。今回は、上で触れた、便秘改善の手のツボ、「合谷」に注目してみましょう。 *本記事は、『東洋医学はなぜ効くのかーーツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「合谷」はどこにある?
便秘に良いとされるツボはいくつか知られていますが、有名なのは、手の親指と人差し指の付け根から、やや人差し指寄りにある合谷(ごうこく)と呼ばれるツボです。 でも、なぜ手にあるツボを刺激することで、お腹の調子が良くなるのでしょうか。そのカギを握るのは自律神経(交感神経と副交感神経)です。脳やホルモンへの作用とも連携し、鍼灸は自律神経にもはたらきかけることで、心と体の状態を整えているのです。
「体性ー自律神経反射」とはなにか
ではここで、ある実験の成果を見てましょう。 生理学者の佐藤昭夫(1934~2006)とドイツのシュミットは、ラットを使って皮膚へ刺激を行った際の自律神経の反応を精緻に調べ、そのメカニズムを明らかにしました。その実験の一部を簡単にご紹介します。 麻酔をかけたラットの腹部の皮膚をブラシやピンセットで刺激すると、胃の活動が一時的に低下します。このとき、胃につながる交感神経の活動は活発になりますが、副交感神経(迷走神経)には変化が見られません。つまり、腹部への刺激は、交感神経を介して胃の活動を低下させたと考えられます。 一方、ラットの前足や後足を刺激すると、胃の動きが活発になります。このとき、交感神経の活動には変化が見られず、副交感神経の活動が活発になります。つまり、前足や後足への刺激は、副交感神経を介して胃の活動を促進したと考えられます。 佐藤らはこうした精緻な実験によって、最終的に次のようなメカニズムを発見しました。それは、皮膚や筋肉などへの刺激は感覚神経に入り大脳へと向かいますが、それだけでなく、手前にある脊髄や脳幹で折り返して交感神経や副交感神経に伝わるというものです。こうした大脳を介さない、いわば無意識の反応は、反射と呼ばれ、この経路によって内臓のはたらきが調節されているのです。皮膚や筋肉などの感覚は体性感覚と呼ばれることから、佐藤らはこの経路を体性ー内臓反射と名付けました。そして、1973年に「Somatosympathetic reflexes : afferent fibers, central pathways, discharge characteristics」というタイトルの論文で発表したのです。なお、この体性ー内臓反射は現在では体性ー自律神経反射という名称でも呼ばれています。