川崎宗則「勝ち負けという見えないものと戦っちゃいけない」少年野球への思い語る
野球がうまくなっても、幸せにはなれない
プロという厳しい世界に22年間も身を置きながら、今も「野球が楽しい」と語る川崎宗則。彼をそこまで夢中にさせる野球の魅力とは一体何か? そして、「引退はない」と語る川崎本人が思い描く10年後の自分とは―― ――なぜそんなに野球が好きなんですか? やっぱりMLBでの経験が大きいですね。日本の野球って「戦い」なんですよね。武道とかにつながるものだと思うんですけど、本来は野球って「PLAY BALL!」の掛け声で始まるものじゃないですか。直訳すると「ボールで遊べ」ですよね。野球って、しょせんはボール遊びなんですよ。そういう気持ちになれたことで、技術を上げることも楽しみながらやれるようになった気がするんです。もちろん仕事だから楽しめない部分があるのも分かります。野球ってすごく残酷なスポーツで、いくら練習しても、どれだけ努力しても結果が出ないことがある。むしろ、その方が多いくらい。でもだからこそ原点である「PLAY BALL」を忘れないこと、それを今もMLBで経験から教わっています。 別にアメリカのまねをしろとは思わないですよ。日本の野球は強い。アメリカから来たベースボールを極めて、より緻密に、確実性を高めたからこそ国際大会で勝つこともできる。それが日本の野球のレベルの高さを証明している。でも、それを追い求めるばっかりに自分を苦しめてしまう。中学校でも少年野球でも勝つことばかり考えて本来の野球の魅力であるボールを追いかけること、バットを振ること、仲間を励ますことを忘れてしまう。「勝つ」「負ける」という見えないものと戦っちゃいけないんです。それを追いかけるのは、プロになったり、企業を背負ってからでいいと思うんです。仕事として責任がある立場ならわかるけど、小学校、中学校、高校はお金もらっているわけではなくてむしろ払ってるんだから。そこで「勝とう」って責任を背負い込んでしまって体やメンタルを壊すようなことはしてほしくない。甲子園で勝つことですら、もちろん素晴らしいけど、どうなのかな……と思う部分はあります。それがすべてではないですから。負けても、甲子園に行けなくてもなんてことはない。 ――指導者として野球の楽しさを伝えたい? 野球とこれからの社会とをつなげていけたらいいなと思っています。技術を教える人はすでにたくさんいらっしゃるし、僕がしたいのはそこではない。別に野球がうまくなったからって人生は楽しくならないんですよ。大切なのは野球をしたことで次の社会でどういう人間になるのか、どういう男になるのか、どういう女性になるのか。それこそが人生の楽しいところだと思うんです。野球で人生をいかに楽しくできるか、幸せにできるかをこれから僕は伝えていかないといけないと思っています。 ――10年後の川崎選手は何をしていると思いますか? 10年後は……50歳ですね(笑)。だいぶ脚力が落ちてるから、こういう取材も受けずにスプリントのトレーニングをしているんじゃないかなと思いますね。先日、山本昌さんから「50歳までは上半身は大丈夫だけど下半身が落ちてくる」という話を聞いたので。10年後なら息子も18歳になるので良い練習相手になると思うし、息子に負けないように走りまくってるんじゃないかな。仕事は何しているか分からないけど……無職かもしれないね(笑)。でも、仕事はどうでもいいんです。しょせん仕事だから。 (聞き手・文:花田雪) ※この動画記事は、ラブすぽとYahoo! JAPANが共同で制作しました ※動画内でプロ生活を「23年目」と発言していますが正しくは「22年目」となります