川崎宗則「勝ち負けという見えないものと戦っちゃいけない」少年野球への思い語る
「諦めない」ではなく「諦めた」
川崎宗則には、常に「ポジティブ」な印象がついて回る。NPB、MLB、台湾、独立リーグ……。どんな環境でも、いつも明るく、前向きにプレーする。なぜ、どんな環境でも前を向き続けることができるのか。そこには、プロ1年目に味わった挫折と、そこでたどり着いたひとつの「思考」があった。 ――野球選手としていちばんつらかった時期は? プロ1年目の18歳ですね。すぐにクビになると思ったし、毎日「もうやめたい」と思っていました。練習にまったくついていけずに、高校でやっていた野球とプロの野球が全く違うスポーツだなと思うくらいレベルの差があって……18歳の僕にとっては「プロの壁」がエベレストのように高かったですね。先がまったく見えなかった。あの頃は毎日のように泣きながら父親に「もう無理だ」と電話していました。うちは電器屋なんですけど「プロをやめて電器屋で働くから」って(笑)。 でも、ある日を境に諦めたんです。悩むことを諦めた。もうこの環境を楽しむしかない。高校時代と比べたらすごいトレーニングもできるし、道具もそろっているし、食事も充実している。こんな素晴らしい環境はないと思って、ここを満喫してやろうと思って、気づいたら22年たっています。もちろん順風満帆ではなかったですけど、楽しめているのは18歳のときに「諦めた」からこそ。「諦めない」じゃなくて「諦めた」。「諦める」ことは悪いことではないですよ。 ――野球に限らず、環境を変えることのメリットは? 環境を変えること自体、オススメはしないです(笑)。(別の場所に)行きたい人は行くし、行かない人は行かない。行かないことも正解だと思います。とどまることは別に悪いことではない。 ただ僕自身は福岡に行ってカナダ、アメリカに行って、台湾に行って、今は栃木にいる。いろいろなところに行くことによって客観的にモノを見られるようになりました。学校の小さな教室の中の世界がすべてだとは思いこんでしまわずに、世界は広い、いろいろな考え方があるんだと知るだけでも楽になれることもあると思います。会社でもそうですよね。小さな組織の中でお金をもらっているとそこに責任が生まれてしまう。そうすると、その中のルールに縛られてしまう。だけど、そうじゃない。しょせんは仕事だし、しょせんは学校ということが分かればいいのかなと。だから、そういう人には早く「諦めて」ほしいですね。