北朝鮮による「ハローキティ無断使用」に日本が抗議できない「意外な理由」
韓国は著作権料をストック
韓国では、北朝鮮の著作権に関する事業を「南北経済文化協力財団」が代行している。韓国での「朝鮮中央テレビ」の映像使用については、韓国側を代理した「南北経済文化協力財団」と、「朝鮮中央テレビ」を代理した「民族和解協議会」と「著作権事務局」が取り決めてきた。 各テレビ局が北朝鮮へ支払うべき著作権料は、南北経済文化協力財団が韓国政府統一部の承認を得てから北朝鮮へ伝達するという形になっていた。だが北朝鮮は、2009年4月に人工衛星打ち上げロケットを発射。それに対する韓国政府の北朝鮮制裁で、民間部門での北朝鮮への送金が禁止された。そのため、各局が朝鮮中央テレビへ支払うべき著作権料は、裁判所に供託されることになった。 そうして供託された金額は、2021年現在で23億4499万ウォン(約25億円)になる。このように韓国では、北朝鮮への制裁解除後に必要となる支払いのために著作権料がストックされているのだ。 韓国では、日本以上に北朝鮮と軍事的にも厳しく対峙していた時期を含め、北朝鮮への著作権料の支払い・管理をしてきた。「ベルヌ条約加盟国であっても未承認国であれば支払わなくても良い」とする日本とは、国際条約や著作権に対する姿勢があまりにも異なる。
国交正常化後に「請求書」？
この9月には、北朝鮮メディアと日本の「朝鮮新報社」に著作権がある著作物の無断使用が明らかになった。『朝鮮新報デジタル』(9月6日)は、インターネットメディア『NK NEWS』が北朝鮮の新聞・通信・放送・インターネットメディアの編集物を無断転載しているのは著作権侵害行為だとした。 記事によると『NK NEWS』は、韓国を拠点に活動する米国企業「Korea Risk Group」が所有しているという。そして記事では、英国のニュースサイト「Covert Action Magazine」がこの会社を「米国中央情報局(CIA)」と関係があり、米国務省・国防総省などからの資金援助があるとしていると報じた。 朝鮮新報社は今年7月、『NK NEWS』の親会社の「Korea Risk Group」に対し無断転載の即時中止と謝罪・賠償を求める通知書を送付。同社は無断転載について「ソフトウェア開発のエラーによる意図しないミス」としたという。 その結果、朝鮮新報の記事・写真は削除されたが、北朝鮮メディアの無断転載は続いている。それは、朝鮮新報社が日本のメディアであるため訴訟を恐れて削除したものの、北朝鮮メディアからは訴訟がないと判断してのことだろう。 北朝鮮の著作権を認めない文科省の判断とそれを法的に認めた最高裁判決、そして抗議されても北朝鮮著作物の無断使用を続ける『NK NEWS』の姿勢には共通したものがある。米国・日本・韓国の政府による、北朝鮮への制裁などの徹底した敵視・封じ込め政策が明確に反映されているのだ。「敵対している国のいかなる権利も尊重する必要がない」ということなのだろう。 現在の北朝鮮をめぐる緊迫した東アジア情勢は、米国のドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲いたならば一気に変わる可能性がある。トランプ氏が、北朝鮮の核保有を容認することを検討しているとの観測は以前からあり、非核化を放棄し核軍縮に取り組むのが現実的という意見が大統領選を控えた米政界にあるという。 またロシアのラブロフ外相は9月26日、「北朝鮮の非核化は、もはや終結した問題」と述べた。北朝鮮と密接な関係となったロシアがそのような姿勢なのは当然だろう。ところが“核の番人”と呼ばれる「国際原子力機関(IAEA)」のグロッシ事務局長も同日、北朝鮮の核保有を認めて対話を推進するべきと発言したのだ。 そのように進んだとしたならば、東アジア情勢は大きく緊張緩和へ向かう。米朝関係が変われば、日朝・南北関係も変わらざるを得ない。そうなれば北朝鮮から日本に対し、未払いの著作権料と無断使用に対する損害賠償を請求される可能性があるだろう。 (引用以外の写真は筆者撮影)
伊藤 孝司(フォトジャーナリスト)
