北朝鮮による「ハローキティ無断使用」に日本が抗議できない「意外な理由」
最高裁で政府見解が確定
小林氏は2003年2月にテレビ各局に対して、北朝鮮から委任された内容を通知。そして4月に、著作権に関する国際条約「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」への北朝鮮の加盟が発効した。 それに対して文部科学省は、「北朝鮮がベルヌ条約を締結したとしても、わが国は北朝鮮を国家として承認していないので、北朝鮮の著作物を保護する義務を負うものではない」と発表したのだ。それによって、フジテレビは北朝鮮映画の使用料の支払いを中止した。 小林氏のカナリオ企画は、政府方針を根拠にして無断使用を続けるテレビ局に対し、2年間にわたって警告。そして、これを受け入れないフジテレビと日本テレビに対し、2006年3月にカナリオ企画と北朝鮮の文化省傘下の「朝鮮映画輸出入社」が原告となり、放送差し止めと損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴した。 裁判の争点は、日本の未承認国(北朝鮮)との間で国際条約(ベルヌ条約)上の権利義務が発生するかどうかということだった。北朝鮮は条約に従って日本の著作権を保護することを表明し、「もし相互尊重ができないことが確定した場合は、それを保護する義務がなくなることを憂慮する」との意見書を出した。 2007年12月、この1審は原告が敗訴。朝鮮映画輸出入社は、「朝鮮民主主義人民共和国への誹謗中傷の手段として利用した著作権違反行為を正当化」と判決を批判した。 2審の知的財産高等裁判所では、原告が勝訴する。「著作権法で保護されていない著作物であっても、経済的価値があれば法的に保護され、報道目的であっても無断放送は正当性を欠く」とし、賠償請求を認めたのだ。 だが2011年12月に最高裁判所第1小法廷は、「国際条約に未承認国が加入しても、直ちにその国と権利義務関係が生じるとはいえない」との判断を示した。こうして、原告敗訴が確定したのだった。
「無断使用」はコインの裏表
この最高裁判決は、「著作権保護は、国家の枠組みを超えた普遍的に尊重される価値を有するものと位置づけるのは困難」とした。インターネットの利用拡大によって著作権侵害が増大している中で、国際的にも著作権保護を強化する必要がある。ところが判決は世界の潮流に逆行し、著作権保護というものを極めて軽視している。 また判決が、「相手国の権利義務を認めるかどうかは、国際条約ではなく日本政府の判断によって決まる」としたのは国際条約の軽視である。日本にとって不利益をもたらす国際条約は、守らなくても良いということなのだろうか。 そして何よりも問題なのは、「ベルヌ条約」は相互主義を採用しているため、北朝鮮に日本のすべての著作物の無断使用を認めることになった。つまりコインの裏表なのだ。北朝鮮に、日本の映画やテレビの映像だけでなく、さまざまなソフトや音楽・出版物・絵画などを自由にコピーして使用できる状態にしたのだ。 「朝鮮著作権事務局」は、原告が敗訴すれば北朝鮮で日本の著作権を侵害する事例があっても「それを取り締まる法的根拠を失うことになる」との書面を裁判所に提出していた。 現在の状況は、北朝鮮で日本の商品のコピーが生産されたり、それが海外に輸出されたりしても“合法”なのである。北朝鮮と同じように日本と国交のない台湾では、2001 年 11 月にWTO(世界貿易機関)へ加盟するまでは日本の著作物は保護されていなかった。そのため、海賊版の製造・販売が行われていたという事実がある。