「歴史だけでは食べていけない」――老舗劇団が直面したコロナ危機
3度目の緊急事態宣言で、多くの劇団が公演の中止を余儀なくされた。昨年からのコロナ禍で、大小さまざまな劇団が経営面で苦境に立たされている。創立84年の名門、文学座も例外ではない。最大の危機をどのように乗り切ろうとしているのか。渡辺徹さんら俳優陣と演出家に話を聞いた。(取材・文:長瀬千雅/写真:後藤勝/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
84年続く劇団の灯
「検温させていただきます」。4月上旬、東京・信濃町にある文学座アトリエの入り口で、係員に呼び止められる。観客は検温と手指の消毒をして、中へ入る。 文学座アトリエの本来のキャパは150席だが、コロナ禍ということで75席に抑えている。この日の観客は60人ほど。若手の公演であることを差し引いても、客足は戻りきっていない。
さらに4月25日には、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に3度目の緊急事態宣言が発出された。東京都が映画館や劇場などの施設に休業を要請したため、文学座は5月6~9日に開催する予定だった研究生の発表会の有料一般公開を中止した。4月16日にアトリエでの自主企画公演を終えたばかりで比較的影響が少なかったとはいえ、損失は少なくない。
今年1~3月の2回目の緊急事態宣言のときは、本公演の開演時間を繰り上げ、客席を減らして対応した。創立84年の伝統がある文学座も、新型コロナウイルス感染症が流行し始めて以降、厳しい状況が続いている。 演出家の西川信廣さん(71)は、幹部として劇団経営の立て直しを担う。 「うちの場合、東京で作品をつくって公演をして、その作品を1年後2年後に全国の演劇鑑賞会で例会に取り上げていただいています。だから、収益があがるのはそのあとなんですよね。今年作品をつくらないと、先々見ていただくものがなくなってしまう。だから今、(客席制限や公演中止で)赤字でもやらなくちゃいけない」
劇団を支える全国の116団体
演劇鑑賞会とは、地域ごとに組織される会員制の集まりで、全国に116の団体がある。月会費は2500円ほど。東京から劇団を招いて、年4~7回ほど「例会」と呼ばれる上演会を開く。戦後発足した大阪勤労者演劇協会にルーツがある。 現代演劇への公的助成がなかった時代、劇団を支えたのはこうした草の根的な運動だった。例えば、故杉村春子さんの代表作「女の一生」は、旅公演で絶大な人気があった。 今でも、旅公演は劇団の収入の柱である。しかし、全国の演劇鑑賞会の会員数は年々減っている。1990年代のピーク時は28万人を超えていたが、現在は約9万人。高齢化が進むところに、コロナ禍が追い打ちをかけた。新規会員の獲得に取り組む団体もあるが、苦しい状況が続いている。 「劇団員にも言うんだけど、ここ(アトリエと隣の稽古場のある土地)は自前だから、いざとなったら借金して、返せなくなったら売り飛ばして終わりって」