なぜ今「日本発」ローカルチェーンが必要なのか──インターネットにおけるLANの役割に喩えた「Japan Smart Chain」伊藤穰一氏プレゼンテーション全文とQ&A
Q&A
伊藤氏のプレゼンテーションと、伊藤氏、カマー氏のプレゼンテーションのあとには、Q&Aセッションが行われた。 ──「日本発のブロックチェーン」という意味では、レイヤー2だがソニーの「ソニューム」、あるいは同じようにイーサリアム互換を謳う「Japan Open Chain」がすでに存在している。それらとの戦略の違い、差別化ポイントはなにか。 伊藤氏:ターゲットが少しずつ違うと思う。ソニュームは近くで見ているのでわかるのですが、ソニーのエコシステムのアセットとか、エンターテイメントをきちっとシームレスに乗せていくことがおそらくメインで、KYCを中心としたコンプライアンスをメインにしている我々とはターゲットはかなり違うと思う。 カマー氏:マルチチェーンの世界です。いろいろな目的でさまざまなチェーンが最適化していく。日本発のプロジェクトもレイヤー1、レイヤー2、複数あり、我々も独自のアプローチを行った。我々が重点を置いているのは、規制環境におけるユースケースです。さらに未来のテクノロジーロードマップにおいても細かいところに配慮したアプローチを行っている。重要なことは、イーサリアムとの互換性ではなく、Ethereum equivalence(イーサリアム・イクイバレンス=イーサリアムと同等)であることです。 伊藤氏:補足すると、Ethereum equivalence(イーサリアム・イクイバレンス)とは、アップデートを導入していくだけでなく、我々のパッチも彼らに提供していく。11月のDevconにもチームが全部入っていて、イーサリアムコミュニティと合体してやっていく。その意味では、限りなくイーサリアムとリアルタイムでシンクロしていくことが特徴的。デベロッパーが英語と日本語が混ざると運営上大変なことはあるが、海外の特にセキュリティのところにリアルタイムに入っていくためには、かなり有効なチームだと思っている。 カマー氏:チェーンが複数あることで、マーケットが活気づく。消費者やユーザーにとって、多くの選択肢があることはポジティブなことだと思う。我々もさまざまな選択肢があるなかで、何をどうすべきか深く検討して、我々の強み、特長を発揮していきたい。 ──バリデーターを日本の産業リーダーとし、データの保管場所も日本にするというのは、どのような仕組みで実現するのか。 カマー氏:地道に着実に、日本で日本のパートナーと手を組んで、日本においてインフラを構築することを我々自身で行っていく。だがもちろん、我々のチェーンは誰でも使える。これがまさに重要なこと。日本から世界に向けたもので、「日本発」の部分を強化し、提供していく。 伊藤氏:誰がバリデーターになれるかをコントロールし、チェックすることによって日本にハードウェアがあることを確認する。 ──なぜ、プライベート/ローカルという結論に至ったのか、世の中の流れとしてはパブリック/グローバルであり、真逆に感じる。 伊藤氏:インターネット業界でも、ローカルエリアネットワーク(LAN)とかNAT(編集部注:ネットワークアドレス変換、プライベートIPアドレスとグローバルIPアドレスの変換を行い、LAN内部とインターネットの接続を実現する技術)は良かったのか悪かったのかが議論されている。セキュリティの問題や、アドレス数が足りなくなったためだが、会社や家にはLANがあり、LANがグローバルインターネットに接続している。 コンプライアンス面で考えると、イーサリアムはグローバルだが、アメリカがあるサービスをブラックリストに載せると、世界中がブラックリストに載せる。ブロックチェーンは分散型と言われるが、アメリカがNOなら、世界中がNOとなる。 アメリカのいろいろなルールに従って、グローバルなWeb3は動いていて、本来であれば日本のブラックリストは日本で決めれば良いはず。グローバルなアプリケーションはグローバルなシステムに入らなければならないが、日本だけでまとめようとしているときに、なぜアメリカのコンプライアンスに従わなければならないのか。ユースケースによって、日本の企業が日本の規制に従い、わざわざ海外に合わせなくてもいいようなことがあると思う。 カマー氏:アプリケーションと使用という観点では、オープンでパーミッションレス。なのでクローズドとは言いません。しかし選ばれた日本のバリデーターで構成される。さらに日本発・日本向けなので、ユーザーエクスペリエンス(UX)は日本の皆さんにとって最適なものを提供できると自負している。もちろんマルチチェーンの世界なので、他のチェーンとも相互運用できるように繋げていく。 伊藤氏:本来であれば、イーサリアムが日本対応が必要なものは日本対応できると理想的。インターネットも理想的には、IPv6にもっと早く移行して、LANが不要になるように進化するべきだった。村井純先生(編集部注:工学博士、デジタル庁顧問、日本の「インターネットの父」と呼ばれる)はそうなって欲しかったのだけれど、ただ実際には、日本がやりたいことのために、グローバルの規格を変えてはくれない。 今、もう波が来ようとしてるときに、我々のパートナーがKYCを効率よくやりたいといっても、そのためのツールがグローバルのブロックチェーンではなかなかできない。やはり理想と現実のギャップがある。本来であれば、LANはいらないし、こういう主権型チェーンもいらないのではないかと思うのですが、実際、存在することによって、今までできなかったビジネスができるようになると思う。 |取材・編集・写真:増田隆幸
CoinDesk Japan 編集部