なぜ今「日本発」ローカルチェーンが必要なのか──インターネットにおけるLANの役割に喩えた「Japan Smart Chain」伊藤穰一氏プレゼンテーション全文とQ&A
会計の重要性
さらにもう少し広い話をすると、僕は会計はすごく重要だと思っている。メソポタミアで粘土板を使って会計、簿記が始まった。当時は宗教家がコントロールしている大都市があったのですが、貸し・借りとか、資産の管理が中央集権型ですができるようになり、それによって都市の規模が1万人を超えた。初めてソサイエティ(社会)がスケールできたのは、この簿記、台帳のおかげだった。 次の発展は紙とインクをベースに、複式簿記とか、統計とか、リスクの数学、これは博打から生まれたのですが、リスクの数学ができて、それで金利とか保険とか、投資や株が生まれ、さらに複式簿記によって1つの中央の台帳ではなくて、分散化して、いろいろな会社が相互乗り入れして、こっちが借りた、こっちに貸すというような今のマーケット経済のもとになった。 そして会計とともに法律も生まれた。法律と会計が面白いのは、もともと宗教から来ていることで、破るとバチがあたる。当初は簿記の最後にも「アーメン」と書いてあって、「私はこの数字が正しいと神に誓います」とある。その後、神様の代わりに国家が入り、会計士とかが入ってきた。つまり会社は、いろいろな約束事を法律で決めた契約書と、帳簿、つまりPLとBS(損益計算書と貸借対照表)で存在している。今のマーケット経済とか民主主義もそれで成立している。 次に何が起きているかというと、紙とインクからデジタルになって、さらにブロックチェーンで確認できるようになってきている。スマートコントラクトを使ってプログラムで書き込めるようになってくる。
「人間の協調のためのプロトコル」
そのプログラムをコントロールしたり、人間がわかるように解析するために今のLLM(大規模言語モデル)のようなAIがあって、それを通じて今まで存在していなかった、分散型のプログラマブルなソサイエティが生まれつつある。必ずしも良い方向とは限らなくて、このプログラマブルなソサイエティをどう良くするかは、これからの我々の課題です。 ただメソポタミアの紀元前3500年頃の人たちが今のマーケット経済などは絶対に想像できなかったのと同じで、今我々のマーケットがこれからどうなるかは想像できない。これが数千年で見た背景です。 今、もう企業や国は、ほぼプログラムです。1人がコントロールしているのではなくて、紙に書いてある政策とか、法律に基づいて動いているわけですが、これが実際にプログラムになってくる。 そしてこれはEthereum(イーサリアム)というプロトコルのアニュアルレポートに書いてあったのですが「イーサリアムは、人間の協調のためのプロトコル」。暗号資産というと投機目的だったり、ビットコインは決済中心のものですが、イーサリアムはスマートコントラクトがあるので、会計と同じようにソサイエティをプログラムしてコーディネーションするためのものということが重要で、これからは本当に民主主義、資本主義そのものの進化の根っこになるのではないかというのが大きなビジョンです。