作家志望のお笑い芸人・斉藤紳士さんと元祖カリスマ書店員の間室道子さんによる「極上の読書案内」。
ミステリーあり、笑いあり。 二人が太鼓判を押す小説とは。
間室 今日はおすすめ本を5冊紹介してほしいとのリクエストがありまして。お互いに1冊ずつ紹介していきましょうか。私は日々お客さまに本をおすすめする仕事柄、今回も斉藤さんや『クロワッサン』の読者を思い浮かべながら選んできました。まずは、藤沢周平『秘太刀(ひだち)馬の骨』。これは時代小説でありながら、極上のミステリーなんです。この作品がマイ・ファースト藤沢周平なんですが、そうでなければこんなに藤沢ファンになっていなかったかも。 斉藤 僕は仕事柄、笑いに意識が行くので、まずは自分が読んで笑った作品として小島信夫『アメリカン・スクール』を選びました。小島さんは僕にとっては「天然の人」。意図的に笑いを作っている部分もあるとは思うんですが、普通に書いているのにどこかずれているという面白さがあります。 間室 では私も笑える1冊を。一條次郎『ざんねんなスパイ』です。これはいわゆるオフビート小説。一言でいうと登場人物が全員変なんです。この作品も笑いが計算ずくではないところが素晴らしい。何もない平地ですっ転び続けるようなパワーにシビれます。 斉藤 僕の2冊目は、西加奈子『サラバ!』です。これを読んだ頃、当時コンビを組んでいた相方に作ったネタを否定され続けていて、そのうち相方におもねるようなネタばかり作るようになっていたんです。そんな時、この本の中の「あなたが信じるものを誰かに決めさせてはいけない」という言葉に出合い、コンビ解散を決心しました。 間室 そうですか……。読みながら主人公と長い旅をしている気分になる本ですよね。旅といえば、恩田陸『鈍色幻視行(にびいろげんしこう)』。豪華客船を舞台にしたミステリーです。この本の魅力は、分からない人にとっては何でもない一言がとてつもなく怖く感じるところ。でもそれには小説作品にどっぷり浸ること、虚構に身を預けることが大事なんです。そういう意味で、この作品は近頃の「サクッと読める」や「映画を早送りで見る」に対するアンチテーゼかと。