作家志望のお笑い芸人・斉藤紳士さんと元祖カリスマ書店員の間室道子さんによる「極上の読書案内」。
斉藤 僕が「小説でこんなことができるんだ」と思ったのは、村上龍『海の向こうで戦争が始まる』。登場人物の目がカメラのような働きをして、小説を読んでいるのに映画を見ているような感覚になったことに衝撃を受けました。 間室 小川洋子『掌に眠る舞台』は、斉藤さんも日々立っている“舞台”をテーマにした短編集。一編一編が素晴らしいうえに、この本は「この世に舞台というものがある喜びと奇跡」についても書かれています。 斉藤 干刈(ひかり)あがた『ウホッホ探険隊』もおすすめです。両親が離婚する家族の話なんですが、僕も同じような体験をしていることもあるからか、読むと必ず泣いてしまいます。母親が息子に「君」と呼びかける二人称の文体も悲しみを加速させている気が。 間室 私の最後の一冊は川上未映子『黄色い家』。純文学の作家が書くエンタメのタガが外れて生き生きした感じが好きで。これはお金の暴力性が暴かれる話。読後は全身を札束で引っぱたかれまくったようにヘトヘトになる、エネルギッシュな作品です。 斉藤 僕のラストは今村夏子『あひる』です。この作品は作り方がまるでコント台本と一緒。人間の根底にある面白さを描きつつ、純文学として読ませているところがすごいなと。 間室 今村さんの作品には、どこか不気味さもありますよね。いろいろな受け取り方ができるところも、コントに通じる部分があるような気がします。 1. 『アメリカン・スクール』 小島信夫 (新潮文庫) アメリカン・スクールの見学に出かけた日本人英語教師の体験を描く芥川賞受賞作を含む短編集。「読みながらつい笑ってしまいます」 2. 『ウホッホ探険隊』 干刈あがた (P+Dブックス 小学館) 離婚を契機に新しい家族像を模索し始めた夫、妻、小学生の二人の息子。「明るくたくましい息子たちの姿がより悲しみを誘うんです」 3. 『サラバ!』 西 加奈子 (小学館文庫 上・中・下巻) イランで生まれた歩(僕)、父、母、姉からなる圷(あくつ)家とその親類、歩の友人たちの数十年を描いた大作。「作者の熱量に圧倒されます」 4. 『あひる』 今村夏子 (角川文庫) 1羽のあひるを飼うことになった家族の変化を描いた表題作のほか、2編を収録した短編集。「今村さんは今一番注目している作家です」 5 『海の向こうで戦争が始まる』 村上 龍 (講談社文庫) 海辺で出会った男女のやりとりを起点に、男の目に映る海の向こうの物語を描く。「まるで映画を見ているかのような感覚になります」