「だって、一緒に飲むと効き目が増すんです」“心の風邪”で一気に浸透…「うつ」への理解がすすむ裏で深刻化している、“処方薬依存”とは
「プロザック革命」が起こした変化
この現象は、アメリカで人気の高かった精神分析のセラピーが退潮する原因になったとも言われている。高い料金を払って週に2,3回精神分析のセラピーに通ってもなかなか気分がすぐれなかった人が、プロザックを飲んでみた。あっという間に気分は晴れ、前向きになったではないか。いったい自分は今まで何をしていたんだろう……。 こう思ったひとたちは、精神分析のセラピーをやめてプロザックを飲むようになったという。これを「プロザック革命」と呼ぶひともいる。 アメリカで起きたことは10年後の日本でも起きると言われるが、精神分析の退潮は日本でも著しい。1990年代、日本の臨床心理学においては、フロイトやユングの理論にのっとった精神分析的実践が主流だった。 ところが21世紀になると、セラピーという言葉も衰退し、もっとわかりやすい認知行動療法などが盛んになり、時間のかかる分析的心理療法は人気を失った。アメリカのように、そこには当然SSRIの影響もあるだろう。
抗うつ薬の大衆化とうつ病患者の激増
プロザック発売から約10年後の1999年、日本でもSSRIが認可され、パキシルという商品名で処方が始まった。カウンセリングに来談する人(クライエント)たちも、クリニックでパキシルを処方された人が多かった。私の運営するカウンセリングセンターは医療機関ではないが、クライエントの服用経験をとおして、SSRIの効能や功罪を私も知ることになった。 心の風邪なのだから、気分が落ちたらSSRIを飲めばいい。こうやってうつ病の受診者は激増した。日本だけではない。新しい薬が開発されることで患者数が激増するという現象は、1980年以降欧米でも起きている。
女性に増えている、「処方薬依存」とうつの関係
精神科、心療内科、精神神経科を標榜するメンタルクリニックは激増し、駅前に堂々とメンタルクリニックと看板を掲げる時代になった。 私たちのオフィスはビルの3階にあるが、2階には心療内科が入っている。夕方6時過ぎに仕事を終えて階段を下りる途中に、2階の入り口のガラス越しに大勢の人たちが椅子に座って待っている様子が見える。それこそ老若男女、背広姿からアパレル業界人風なひとまで、雑多なひとたちがひたすら携帯画面を見ながら診察を待っている。 現在、女性たちの多くが合併しているのが処方薬依存だ。うつの一般化に伴って処方薬への抵抗が少なくなったことで、抗うつ薬を飲んでから酒を飲むという行動につながっている。 コロナ禍で、トー横キッズと言われる女子高生たちが、ドラッグストアで万引きした薬を大量に飲む姿が注目された。市販薬への依存がこうやって増えていく。買えばそれなりにお金のかかる薬(睡眠薬、鎮痛剤、咳止め薬)だが、万引きしなくても保険証があればメンタルクリニックでは手軽に薬が処方される。 多くのアルコール依存症の女性たちは、メンタルクリニックを受診し「うつ病」という診断名を得ることで、酒だけでは得られない酩酊効果を処方薬との併用で得ている。 ※これまで差があると考えられてきた男性と女性の依存症の傾向や、「自己責任論」の広がる社会において、うつ病がどう扱われているかについて論じる全文は、発売中の 『週刊文春WOMAN創刊6周年記念号』 でお読みいただけます。
信田 さよ子/週刊文春WOMAN 2025創刊6周年記念号
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