「だって、一緒に飲むと効き目が増すんです」“心の風邪”で一気に浸透…「うつ」への理解がすすむ裏で深刻化している、“処方薬依存”とは
メンタルクリニックの存在
アルコール依存症についての常識が60年近く変わらない一方で、ここ20年で急激に変わったものがある。うつ病をはじめとする精神疾患をめぐる常識だ。 21世紀になったばかりのころ、四国や九州から講演の依頼があると、主催者である県の担当職員に「貴県には、精神病院ではなく手軽に行けるメンタルクリニックはいくつありますか?」と聞くようにしていた。 当時は県庁所在地ですら、せいぜい1~2か所くらいだったろうか。おそらくそれは需要の低さによるものではない。受診する側にとって、精神病院はおろか、メンタルクリニックへの敷居でさえ高かったのだ。
根底には、長年精神分裂病と呼ばれた「統合失調症」への偏見が横たわっていたに違いない。鉄格子のはまった病院で、ぶつぶつつぶやきながら歩き回る患者像。驚くことに、現在でもテレビドラマに登場する精神科病院の描写は前世紀のままなのだ。今では禁止された言葉「き●●い」と、メンタルクリニックはひとつながりにとらえられていたのだ。 東京などの大都市では人混みに紛れて受診することもできるが、地方都市ではどこに知人の目が潜んでいるかわからない。某地方都市在住の女性は、地元のクリニックは変装して受診すると語った。近所のひとから何て言われるかわからないし、家族に迷惑を掛けるからと怯えていた。
「心の風邪」というキャンペーン
それが一変したのは、あるキャッチコピーによってである。1999年から開始された「うつは心の風邪」という広告は、グラクソ・スミス・ クライン社が同社の薬の日本での売上の増加を狙ったものであった。薬事法によって薬の宣伝を禁止されている製薬会社は、「薬を宣伝する」代わりに「病気を宣伝する」 という手法を編み出したともいえる。 この言葉はあっという間に広がり、それまでの暗さや深刻さをもって語られていたうつ病に、「風邪」という日常的なたとえによって軽さが与えられ、「誰でも風邪を引くよね」と差別感情を低下させる効果を生んだ。 売り込もうとした薬は、抗うつ剤である「選択的セロトニン再取り込み阻害剤; selective serotonin reuptake inhibitors (SSRI)」を指す。そのキャンペーンの背景には、1999年に日本の厚労省がSSRIを初めて認可したという歴史的事実がある。保険診療で処方が可能になったのだ。 1980年代に入って、うつに関する研究の結果、脳内のセロトニンという物質が催うつ効果があることがわかった。そこで開発されたのがSSRIである。1988年アメリカで初めてSSRIが商品化され、爆発的売れ行きを示した。中でも商品名プロザックは人気が高く、ハッピードラッグと呼ばれるほどだった。発売から10年ほどの間に1000万人が服用したとも言われる。
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