気のせいだとよいのだが|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #41
気のせいだとよいのだが|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #41
前回は番外編ということでいつもと違う話題だったが、ライチョウについては話したいことがたくさんある。今回はそのなかでも年中山に通っている自分だから感じている危機感について触れていきたいと思う。もちろん感じ方は人それぞれだと思うので、ひとつの見方として読んでいただければ幸いである。 編集◉PEAKS編集部 文・写真◉高橋広平。
気のせいだとよいのだが
定期的に高山帯に足を踏み入れていろいろなものを見ていると、自然とその変化を感じる。先日やっとアルプスの高山帯にも雪が降ってくれた。例年よりひと月ほど遅い。1度目の降雪はこれまた例年にない後日の陽光によって瞬くまに溶けてしまったが、再度の降雪の折に入山してきた。この時期に特別な装備なく入山できる山域は限られてくるが、そのなかでライチョウとの遭遇率が高めのとある山域が今回の舞台である。 この山域は立地的に人里から遠く離れた奥山ということもあり、山域の植生はニホンジカの食害や気候変動の影響をまだそこまで受けてないように見受けられる。もっとも私が目の当たりにしているのは数年前からなので知識量としてはそこまで多くはない。 活動当初から通っている山域の植生は、その多くの場所で私の知っている2006年以降からだいぶ変わってしまっている。要因は温暖化による植生の分布の変化もあるが、人間が山に入ることによっての影響も多分にある。山に入らないようにしようということではなく、自分自身も入山者のひとりとして、山に与えるインパクトを極力少なくする努力と配慮は欠かさないという気持ちでいる。そして気がついたこと、気になったことをここで伝えていければと思う。 そんな感じで日ごろからいろいろと気にしながらライチョウの棲まう山へと行っているわけだが、今シーズンのこのひと月遅い降雪である。個人の努力でどうにかなる問題ではないのだが気にせずにはいられない。 雪が降るのが遅かったこともだが、そもそも今年も暑かった。いつまでも暑かった。ここにきて一気に冷えてきて、ひと足遅れながらなかば強制的に例年並みの気温に迫ってきたのだが、植物というものは暖かくなれば芽吹き咲くし、寒くなれば枯れ散る。 いつまでも暑かったということは草木によっては遅くまで咲いていたことになる。普段知っている山域のこの時期はほとんどの樹々は葉は落ち、実も落ちるか萎れているものである。実際干しぶどうみたいになったナナカマドの実をついばむライチョウというのがこの時期の定番なのだが、今回出会ったライチョウが口にしていたのは意外な植物だった。 今回の一枚は、2024年11月下旬に撮影した写真である。換羽自体も順調に進みほぼ冬羽になったオスが、やっと降り積もった新雪の中から何かを掘り起こして食べている。よーく見てみると彼のくちばしが赤く染まっている。直前に近くにいた他のオスと騒いでいたのでまさかの流血沙汰でも起こしていたかと思ったが、あたりを見渡しても血糊と思しきものはなかったので、今ついばんでいたものが赤いものの正体で間違いないだろう。このあたりの植生で赤く染まりそうなものはコケモモくらいだが、一般的にコケモモの実は夏の終わりから秋にかけて真っ赤に熟す。しかし11月下旬にみずみずしいコケモモの実がある……、ということに違和感と同時に危機感を覚えた。 この山域での私の経験値がまだ浅いゆえの過ぎた心配ならばいいのだが、今後ともこの山域での植生なども注視していきたいと思うできごとであった。
今週のアザーカット
2024年12月14、15日に静岡市で写真展をさせていただきます。静岡は以前に日本平動物園で企画展をしたり、井川ビジターセンターに作品が所蔵されていたりとご縁が深く楽しみです。両日ともギャラリートークを予定しておりますので、詳細決まりしだい私のSNSでもお知らせします。新作パネルも用意しましたのでぜひお越しください。 「雷鳥 神の鳥の四季カレンダー2025」(緑書房)も好評発売中です。合わせてよろしくお願いいたします。 ▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら。 ▼PEAKS最新号のご購入はこちらをチェック 。 編集◉PEAKS編集部/文・写真◉高橋広平
PEAKS編集部