名前の読み方を変更 天理の夜間中学生「自分を取り戻した気持ち」
奈良県天理市立北中学校夜間学級に通う中国・広州出身の金燕珍さん(65)は入学時、先生や級友から北京語の読み方で「ジン・イェンジェン」と呼ばれていたが、今は故郷の広東語で「ガム・インヂャン」と名乗る。両親が愛情を込めて呼んでくれた名前を大切にしたいと思ったから。名前を大切にすることは、自分を大切にすることだと学んだからだ。その体験を、12月5、6日に東京都内で開かれる「第70回全国夜間中学校研究大会」で発表する。 ■北京語から広東語に 学齢期は、教育に混乱をもたらしたといわれる文化大革命と重なった。中国で知り合った日本人男性と結婚し、平成6年末から奈良県で暮らし始めた。ほどなくして阪神大震災が発生。生まれて初めて地震に遭遇した金さんは恐怖で足の震えが止まらず、夫に手を引かれて避難したという。その頃の日々を「日本語ができないから、言いたいことも言えず、すごくつらかった」と振り返る。 知り合いが夜間中学を紹介してくれた。「テストがあったら、どうしよう」「覚えられるかな」。学校見学に行くと、そんな不安はすぐに消えた。「先生が親切で、やさしく教えてくれる。ここならやっていける、早く勉強したいと思った」 7年9月に入学。同校は在籍できる期間に上限がなく、金さんは2人の子供の妊娠や出産、子育てなどで休んだ時期があるものの、現在も熱心に通い続ける。 ■両親に愛情込めて呼ばれた 同校には中国のさまざまな地方の生徒も在籍するが、生徒同士の会話は北京語で、金さんが生まれ育った広州で使われる広東語がわかる人はいない。そのため金さんは入学時、皆がわかる北京語の読み方にあわせて「ジン・イェンジェン」と名乗ることにした。 転機が訪れたのは10年程前。担任の先生と故郷の話をしているとき、「名前は広東語でどう読むの?」とたずねられ、「ガム・インヂャン」と答えた。「どっちで呼ばれたい?」と聞かれると、「親がつけてくれた名前で呼ばれたい」と口にしていた。 読み方を変えた当初は級友らの間で「ガムさん」「ジンさん」が混在したが、しばらくすると「ガムさん」が定着。「小さい頃から呼ばれていた名前。自分を取り戻した気持ちになった」と笑顔で話す。
「夜間中学は家族のような雰囲気で、安心して勉強できる。一人で病院や市役所にも行けるようになり、大事にしたいことも自分で決められるようになった。ここで私は強くなった。すごく必要な学校です」