ゼレンスキー大統領に伝えたい「北朝鮮兵掃討シミュレーション」とトランプ新大統領が握るウクライナ戦争の行方
10月17日の報道では、北は一度ではなく、ローテーションで最大10万人を動員可能との事だった。 「北は4~5万人近くの兵を送ることが可能です。すると、露軍はクルスクから東部、南部地域に兵力を移動して戦う有力な選択肢を保持できる。そして、現在の最前線は冬季を迎え、次の新たな戦いは来春となると考えられます」(二見氏) 来春までの数ヵ月の間に最大5万人の兵力が担保できて、そのうちの半数が突撃兵となれば、その数は2~3万人にもなる。もし、停戦交渉が始まった場合、クルスクをウ軍が占領していれば、取引材料としてはどうなるのだろうか。 「価値が高いと考えます。露軍は北軍団を大量に投入し続け、クルスクに展開する露軍兵力との大規模攻撃によって、ウ軍からクルスクを奪還したくて仕方が無いはずです」(二見氏) そのクルクスに来春、ロシアの地形と気象、戦闘要領に慣れてきた北軍団の歩兵部隊がまだ2万人近くいる。 「部隊の特性を生かし、指揮統制を容易にするための有力な部隊運用(案)として北朝鮮軍だけの部隊を作り、冬の間に北軍団だけで独自に戦えるよう訓練します。そして、露軍との間にバウンダリー(バンダレー:境界線)を引いて、『北軍団の担当地域内で部隊の特性を生かして戦わせます』。この間、ロシアとの基礎的協同作戦要領を理解させます。 北は夜間の分散攻撃、ドローンオペレーターの殺害、重要装備の破壊、など、色々仕掛けてくるでしょう」(二見氏) 露軍は北軍団の助力で、クルスクを完璧に奪還し、さらに進撃する? 「ほんの少しのほころびから部隊は崩れることもあり、戦場では何が起こるかわかりません」(二見氏) ■「ホントラ」の恐怖
11月2日、ゼレンスキー大統領は「米国も英国もドイツも見ているだけだ」と、北軍団の派兵に対して米英独を批判。これは、対露戦争で支援している国に対する態度としては拙(つたな)いのではないだろうか。 空自那覇基地で302飛行隊隊長を務め、外務省情報調査局への出向経験のある杉山政樹氏(元空将補)はこう言う。 「『もしトラ』が『ホントラ』になり、ゼレンスキーには焦りがあると思います。停戦交渉になった場合、ロシア領内クルスクに攻め込んで少しでも確保することで、交渉材料に有利になるんじゃないかという戦略を取ったことに対して、焦っているはずです。 英独仏は世界的に見てレベルの高い国ですけど、ロシアから見ればやはり小国。その小国たちが、どうロシアからの脅威に耐えるのか。そこがNATOのポイントです。 かつては、自分たちからロシアに攻めずに、ワルシャワ条約機構軍とソ連軍が攻め込んできた瞬間に、NATO全員で立ち向かわないといけない仕組みを作った。しかし、ソ連もワルシャワ条約機構軍も無くなって、NATOが域外に出るか出ないかという議論をしていた時に、ウクライナが勝手気ままにロシア領クルスクに攻め込んだ。 だから、NATO諸国というのは、皆、大人の付き合いが出来る奴じゃないとダメで、ウクライナはそんな付き合い方が出来ない奴と明快にわかったわけです。そして、そんな国をNATOに入れてしまっていいのか?と、NATO諸国は考え始めているのだと推測しています。 さらに、欧州各国のウクライナ支援熱も冷めてきています」(杉山氏) ウクライナのクルクス侵攻は悪手だったのだ。 「小国の集まりであるNATOは、米国の後ろ支えがあるからロシアと戦える。 その米国の新大統領にトランプが就く。『お前ら甘いんじゃないの? 米国に守られているNATO各国は、防衛費を分相応にGDP比4%に引き上げろ』とトランプが2018年から言っているのは至極当然。ヨーロッパもそれがわかっている。 それでも英独は、今、だまって見ているだけです。それは、トランプとゼレンスキーがどんな話をするのか、各国はこの先が読めないので見極めようとしているからです。 仮にトランプがゼレンスキーを丸め込んで、『占領された所はしょうがないだろ』という落とし所になれば、支援の兵器なんかはもう何の意味もないわけです。もし、ゼレンスキーがトランプの言う事を聞かなければ、NATO諸国はゼレンスキーと与(くみ)することはできない。 NATOの後ろ盾であるトランプ米大統領とゼレンスキーがどういう話でまとまるのかを見ないと、どの国の誰も打つ手を持ってない。だから、英独仏は沈黙を守っている。トランプだけが次に打つ手を持っている。今はそういう状況なのです」(杉山氏) 取材・文/小峯隆生 写真協力/柿谷哲也