VWは国内工場閉鎖検討…欧州EV不振で見直し急務、日系メーカーは?
中国台頭で苦戦、新車販売停滞
欧州自動車メーカーが苦境に立たされている。最大市場のドイツでは新車需要が停滞し市場競争が激化。欧州最大手フォルクスワーゲン(VW)が国内工場の閉鎖を検討するなど各社が経営戦略の見直しを迫られている。環境規制に対応するためここ数年で急速な電気自動車(EV)化を進めてきた欧州メーカー。中国・比亜迪(BYD)など新興メーカーが台頭する中、世界の自動車産業をけん引してきた伝統企業は再び競争力を発揮できるか。(編集委員・村上毅) 【グラフ】EUの新車販売台数とEV化率の推移 「欧州の自動車産業は非常に厳しく、深刻な状況だ。製造拠点としてのドイツは競争力で後れを取っており、断固として行動しなければいけない」。VWのオリバー・ブルーメ最高経営責任者(CEO)は9月に発表した声明の中でこう危機感を募らせた。 VWは1937年の創業以来初となる国内工場閉鎖の検討を始めた。ドイツはエネルギーコストが上昇し人件費も高騰している。工場閉鎖はコスト削減の一環。完成車工場・部品工場など国内十数カ所が対象となる。国内12万人の従業員の雇用を保証する協定も破棄。VWは7月に傘下アウディのベルギー・ブリュッセル工場の閉鎖検討を公表していた。独経済の象徴とも言えるVWの国内工場閉鎖検討は衝撃を与えた。 VWの苦境は欧州メーカーに共通する課題だ。新車販売の停滞と競争激化、性急なEV化でのつまずきだ。 2015年に発覚したVWによるディーゼル車の排出ガス不正(ディーゼルゲート事件)以降、欧州メーカーは当時注力していたクリーンディーゼル技術からシフトし、EV化を一足飛びに進めた。VWは30年に世界販売の5割をEVにし、特に欧州で7割以上をEVとする戦略を掲げ巨額の投資を充てた。 ここにEV需要の変調が影響した。きっかけは欧州でのEV購入補助金の停止・縮小だ。ドイツは23年12月に補助金を停止。同国でEV販売は停滞し、欧州全体でのEV販売も低迷している。 世界のEV市場では中国メーカーが台頭している。中国メーカーの世界EVシェアは24年には6割を占める見通し。特に中国市場では中国メーカーが得意とするEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの新エネルギー車(NEV)の比率が24年8月に44・5%まで拡大した。 中国市場に1980年代に参入し、2000年代初頭には市場シェアの過半を占めたVWだが、中国メーカーが伸長する中で販売を落とし、23年には中国市場シェア首位の座をBYDに明け渡した。 本拠地である欧州市場も中国メーカーに浸食されている。欧州自動車工業会(ACEA)がまとめた欧州域内のEVのうち中国製のシェアは23年に21・7%と20年の2・9%から急拡大した。環境対応でEV市場が形成されている欧州は中国メーカーにとっても魅力的な市場だ。BYDは欧州初となる工場の建設を計画するなど、中国市場が低調な中で中国メーカーは欧州に攻勢を強めている。 欧州メーカーにとっては中国、欧州という二つの主要市場で苦戦を強いられ、VWは24年12月期業績予想で下方修正を余儀なくされた。メルセデス・ベンツ・グループやステランティスも24年の業績予想を引き下げた。 各地で攻勢をかける中国メーカーに世界の目も厳しくなっている。安価なEVの背景にある過剰生産や補助金などを問題視し、米国が中国に追加関税を課したのと同様に欧州も措置に乗り出した。 中国は対抗措置をちらつかせている。独メーカーにとって新車販売の3分の1を占める中国での競争激化が予想され、独メーカー自体もコスト競争力のある中国生産車を欧州に輸入してきたなど依存度は高い。欧州の措置に独メーカー各社は反対声明を出しており、貿易摩擦の影響が懸念される。