最後の晩餐は牛丼で
孤高のハードボイルド作家、樋口毅宏によるLEON初の連載小説『クワトロ・フォルマッジ -四人の殺し屋-』 。エロス&バイオレンス満載の危険な物語の【第3話 その2】を特別公開します。 クワトロ・フォルマッジ
■ 三人目の殺し屋:Matsuoka Shun(32)
孤高のハードボイルド作家、樋口毅宏によるLEON初の連載小説『クワトロ・フォルマッジ -四人の殺し屋-』 。エロス&バイオレンス満載の危険な物語の主人公はクセの強い4人の殺し屋たち。第1話のキラーエリート・ヒロシ、第2話の空蝉(こっさん)こと山田正義に次ぐ三人目の殺し屋が登場です!
最後の晩餐はあの子の大好きな牛丼で
〝京都でオレオレ詐欺事件首謀者が遺体で発見〟 翌朝のニュースを見てピンときた。同業者の仕事だ。暴力団が関係しているのだろう。トンズラこくとこうなるぞと、見せしめのつもりなのだ。 たいがいの殺しは死体処理を含む。撃ち殺してすっきり。あとよろーってわけにはいかない。警察発表によると、日本は毎年行方不明者が八万人にも上る。僕調べでは十分の一が裏で殺されている。とはいえ殺し屋はあぶれている。僕が契約している国際的エージェントも、最近はちまちました仕事ばかりだ。 この頃は反社がXで殺人代行業を請け負っている。闇バイトってやつだ。けれどもすぐにバレてお縄を頂戴する。大半が死体処理で足がつく。殺しより難しいのはその後だ。銃殺の場合、刑事が大挙して動員される。その点僕のように、食べ物に毒物を混ぜるやり方は、だいたい変死で済む。 朝食の用意をする。昨日もらった「乃が美」の食パンでフレンチトーストを作った。バターは高いほどいい。バニラエッセンスが隠し味だ。これだけで一流レストランの味に近づく。 ふんわかした食パンをナイフでカットすると、中にメモが入っていた。次の殺しのターゲットだった。四十を過ぎた男の写真と現住所があった。またかよと舌打ちする。親が、実の子を殺してほしいという依頼だ。近年はこの手のものが増えた。大方、引き籠もりの息子に手をこまねいているか、老後の財産を食い潰そうとする娘に手を焼く親たちだ。 血は水より濃いという。だからこそ他人ならば許せることも、身内だと憎悪の炎を燃やす。どうして血を分けた者に限って、憎みやすい形をしているのか。 メモを記憶すると、キッチンで火を付けて燃やした。