生における性の問題…男と女のあいだは、じつに「さまざまな状態」だった
有性生殖を獲得した生物
近年は「スペクトラム」という言葉を耳にする機会がふえたように思われます。例えば、発達障害の一つとされる「自閉スペクトラム症」などもその一つですが、「性スペクトラム」も最近よく使われるようになった言葉です。 生命の進化において、多細胞生物の誕生は大きなステップでした。それは単に細胞がたくさん集まっただけのもの(これは「群体」といいます)ではなく、細胞間での役割分担を始めたからです。その中で、一部の細胞にのみ生殖機能を与え、他の細胞は使い捨てにするという選択をした生物が現れました。前者を「生殖細胞」、後者を「体細胞」とよびます。 生殖細胞として卵子を持つものはメス、精子を持つものはオスとなりました。これが有性生殖です。 体細胞は一般に、偶数(2n)個の染色体を持ちますが、有性生殖をする生殖細胞の卵子と精子は減数分裂を経て増えるため、染色体はn個です。卵子と精子が合体(受精)すると、染色体数は2n個に戻り、これが分裂して新たな個体の体細胞をつくります。 ヒトを含む、こうした方法で生殖する生物では、個体としては、卵子を持つメスと精子を持つオスは、はっきりと二分されるように思われます。ところが、話はそう単純ではありません。生物の中には、オスからメスへ、あるいはその逆のように、性を変化させるものがいるのです。
生物に見られる性のスペクトラム
たとえばイソギンチャクと共生していることで有名なクマノミは、生まれたときはすべてオスです。多数のオスが、メス1匹とコロニーを形成して生活しているのです。しかし、もしメスが死んだりしていなくなると、序列1位のオスがメスに性転換して、そのコロニーを支えます。 また、1990年代には、人間が環境中に放出した物質の中に、性ホルモンに類似した働 きを示すものがあることが問題となりました。そのため、多摩川のコイがほとんどメスになってしまったという事例が報告されました。 このように、オスとメスとのあいだでは変換が起きたり、見かけだけではオスかメスかわからなかったりといったことは多くの動物で見られます。これは、100%オスから100%メスまで、さまざまな状態があるということで、これを性スペクトラムとよぶようになりました。 ヒトの場合はどうでしょうか。