生における性の問題…男と女のあいだは、じつに「さまざまな状態」だった
男女ともに、どちらの性ホルモンを持っている
ヒトの場合では、生まれた赤ちゃんは、性器の種類により男か女に区別されます(第一次性徴)が、このときはそれ以外の男女差はほとんどありません。思春期になると第二次性徴がはっきりしてきて、より男性的、あるいは女性的になります。これを引き起こすのが男性ホルモン(テストステロンなど)と女性ホルモン(エストロゲンなど)です。どちらのホルモンも男女ともに持っていますが、その比が男女では異なります。 そして、これらのホルモンが細胞の中の受容体に結合することにより、細胞ごとに男性化、女性化を引き起こし、そこに個人差や、年齢、細胞の種類なども関わって、男性的か女性的かという差異が生じます。 つまりヒトでも、男女は0か1かで完全に区別するよりも、その中間も連続的に存在する性スペクトラムとして考えたほうがいいでしょう。
多次元を示すヒトの性スペクトラム
近年はLGBTQ+についての議論が盛んになり、脳の性の問題がクローズアップされ てきています。脳の構造については、かつては「男性脳」「女性脳」では違いがあるともいわれていましたが、これは誤りであり、一人の脳の中で両方の特徴が混ざっているとされています。 自分の性をどのように認識しているかという「性自認」、どちらの性を恋愛対象にするかという「性指向」が、体の性と同じか異なるかで、さまざまなケースが存在することもわかってきています。つまり脳の性も、男か女か0か1かで完全に2分されるわけではなく、スペクトラム的に分布していると考えられるのです。 これらのことをあわせると、ヒトの性はn次元のスペクトルとして表せそうです。図「さまざまなヒトの性スペクトラム」は性自認、性指向、性ホルモンの3次元で描かれたもので、従来は(1, 1, 1)と(0, 0, 0)の2つの頂点にほとんどの人が位置していると考えられてきましたが、実際にはAさん、Bさん、Cさんのように、この空間のいろいろなところに私たちは位置していると考えられます。 さらに染色体、性器、性的役割などの軸も考えると、実際の次元はもっと多くなります。 それでは、生命の話に戻りましょう。こうした連続的なスペクトラムという考え方は、生命と非生命のあいだにも当てはめることはできないでしょうか。生物か生物でないかということは、たびたび議論となるウイルスをヒントに考えてみましょう。 生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか 生命はどこから生命なのか? 非生命と何が違うのか? 生命科学究極のテーマに、アストロバイオロジーの先駆者が迫る!
小林 憲正