「おばあちゃんの長生きレシピ」を称賛する人が知らない、高齢者の「宝くじ」の真実
高齢女性の食事づくりは「生きがい」や「喜び」と見なされ、身体への負担は無視されがち。その一方で、高齢男性が家族のために食事をつくった場合は、苦労をねぎらい賞賛されるばかりだ。超高齢社会に根深く残る、女性が家事を担うのが「あたりまえ」とされる性別役割分担意識の弊害とは。本稿は、春日キスヨ『長寿期リスク 「元気高齢者」の未来』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 「100歳でも食事づくりできる人」は 宝くじの当たりみたいな人 女性が家事役割を担うのが当然、どんなに高齢であっても女性は料理をする力を持ち、喜んでそれを行うものだ、という考えは、社会に満ち満ちている。 テレビ番組などでは、著名人でもない、一般の元気な長寿期女性高齢者が登場する場合、その人の料理能力が「元気さ」を支える原動力であるとして、毎日の献立などとともに紹介されることが多い。それはたとえば、 「○○おばあちゃんのおいしい長生きレシピ」という具合に。 そして、その食材の買い物は他の人に頼んでいる事実や、ときどき、鍋を焦がしたり、味付けがうまくいかないことがあることなどは、語られることはない。 このことに関連して、ケアマネージャーとして地域の高齢者を支援する立場の男性、SHさん、TKさんに、次のように質問したことがある。 春日「地域で暮らす長寿期女性高齢者が、テレビなどで紹介される場合、自分で食事をつくり、その人の毎日の献立まで紹介するようなものが多いのは、なぜだと思われますか。80歳を過ぎ、90代になっても自分で食事づくりをしている人の多くは、やっとの思いでしている方も多いと思うんですが」 すると、即座に2人から、次のような答えが返ってきた。 SHさん「まあ、90歳を過ぎ、100歳になっても食事づくりをする人なんて、宝くじの当たりみたいな人ですよ。だから、みんな憧れる。特に60代、70代の人は、それを見て、『歳をとっても大丈夫だ』と安心する。 でも、宝くじははずれの人の方が多いでしょ。それと同じですよ。ほとんどの人は、そこにいくまでに、ヨタヨタ、ヨロヨロ。倒れる人の方が多い」