「おばあちゃんの長生きレシピ」を称賛する人が知らない、高齢者の「宝くじ」の真実
春日「そりゃあ、大変ですねえ。毎日となると、何を食べるか、献立を考えるのがねえ。いつもしていないと思いつきませんし。でも、デイに通ってこられる女性の方でも、ご主人と二人暮らしとか、シングルの息子さんと同居されている場合、少々身体が不自由でも、食事をつくっておられる方がおられるのでしょう。それに比べると、施設長さんは車の運転もできるんだし」 施設長「いやあ、そりゃあ、皆さん、食事づくりをしておられる方はけっこうおられますよ。でも、女性の方の場合、男の僕がするのとは違う。それができることが生きがいなんだと思いますよ。皆さん、喜んでしておられるようです」 あれだけ食事づくりの大変さを語っていた施設長が、自分より年長で体力もないだろう長寿期女性が食事づくりをすることについては「生きがいなんだと思います」「喜んでしておられる」と言う。これは不思議なことだった。 長寿期女性ではなく、長寿期男性が妻のために食事をつくっていた場合、それを聞いた人はどう反応するだろうか。「生きがい」や「喜び」になるとは言わず、「大変ですねえ」とその労をねぎらい、「えらいですねえ」「やさしいですねえ」と賞賛することが多いのではないだろうか。 ● 「超高齢期の食事づくりのしんどさ」が 気づかれない背景 こうした場面は他にもあった。夫と二人暮らしの女性WKさん(89歳)、ひとり暮らし女性YMさん(84歳)、夫と二人暮らしの女性ZIさん(75歳)の高齢女性3人が話していたときのことである。 それまで、3人の意見は、「歳をとると食事をつくるのが面倒になるねえ」と一致していた。しかし、WKさんが、「夫の食事づくりに対する態度が協力的でない」と愚痴を言い始めたとたん、WKさんの「食事づくり」だけが、「しんどい」から「生きる張り合い」「元気のもと」に転じていったのである。 WKさん「うちの主人はいろいろ注文も多いし、本当に大変です。主人もいざというときのために配食弁当をとるとか、そういうことを受け入れてくれたらいいのに。でも、無理ですねえ」 YMさん「まあ、ご主人がある人は大変ですね。でも、ご主人のある人は、ご主人の料理をつくることで、元気でいられるし、張り合いもできるんじゃないですか。ご主人の要望に応えることで奥さんの元気になる、ちゃんとつくることで元気にもなるし、生きる張り合いにもなるというところがあると思いますよ」