ホンダと日産の統合は自動車“大淘汰”の幕開けか?電機業界の轍を踏まない戦略とは
● ホンダと日産が経営統合の衝撃 自動車業界にも淘汰の波が訪れる? 自動車大手のホンダと日産自動車が、経営統合への協議の可能性を探るため、調整に入ったという。 ホンダと日産は今年3月にEVやソフトウエア分野での協業を発表しており、いずれは経営統合という話も出るのではと思ったものの、予想よりも早く経営統合に話が進んだという方も多かったのではないかと思う。 筆者のファーストインプレッションは、いよいよ自動車業界もエレクトロニクスで起こった「金太郎アメ的総合電機メーカーの淘汰」と同じような状況が起きつつあるのではないか、ということであった。 ホンダと日産は世界で第7位、第8位の大手自動車メーカーである。国内には三菱、マツダ、スバルなどより規模の小さい自動車メーカーもあり、これまでは、それぞれの自動車メーカーの持ち味を生かし、製品差異化によって、ユニークな小規模自動車メーカーが生き残ることもできた。 三菱は「ランサーエボリューション」や「パジェロ」のような特徴のあるスポーツカーやSUVで根強い人気を誇っていたし、マツダは内燃機関の効率をとことん高めるスカイアクティブテクノロジーでガソリンエンジンをもう一花咲かせていた。スバルは水平対向エンジンが有名で、北米でも技術ブランドとして頭一つ抜けていた存在であった。 日本には自動車メーカーが多すぎるという声もある。しかし、これまでは中小メーカーも製品差異化で生き残ることができた。そうした状況も含めて、今回話題に上っているホンダと日産の統合は、2000年代に起きた日本の総合電機メーカーの淘汰と似ていると言えるのではないだろうか。
● デジタル化が大きな影響を与えた 電機業界「大再編」の教訓 2000年代初頭まで日本には10以上の家電ブランドがあり、それぞれが同じような総合家電の製品ラインアップを有していた。テレビなどの高額家電は、特に多くのメーカーが参入していて、ひとつひとつのメーカーは市場シェアが一ケタ%であっても利益率が高く、それなりに儲けることができていた。この状況は、これまでの自動車メーカーの状況に似ていると言えよう。その後、電機メーカーを襲った悲劇はデジタル化の波である。 デジタル化すると、基本性能が飛躍的に向上し、各メーカーの努力による機能差、性能差は小さいものになってしまう。そこそこの性能の製品でも、顧客にとっては十分な性能であることもしばしばである。 また、デジタル化すると機能、性能の大部分はソフトウエアによって実現するようになる。ソフトウエアの開発は固定費であり、ソフトが実装される半導体も装置産業であって固定費が大きい。そうなると、規模の経済性がものを言うので、各社はできるだけ拡販して、技術の標準化、外販化を目指そうとする。自社の需要以上の部品を世界にばらまくことができれば、規模の経済性のメリットを享受し、より利益率を上げることができるからだ。 だからこそ、市場競争は激化し、シェア獲得のためのコストリーダーシップ戦略が採られるようになる。価格を下げてできるだけ市場シェアを上げようとするのである。価格を下げたとしても、規模の経済性のメリットが得られる範囲内であれば、利益を上げることができるからだ。 もちろん、価格を下げて利益が得られるのは一部の大手メーカーだけという状況になる。すなわち、デジタル化した市場とは、過度にコストリーダーシップ戦略が進んだ、上位企業総取りの寡占市場になるということである。 デジタル化による淘汰は、スマートフォン市場などでも見受けられる。かつて携帯電話端末は、世界の地域ごとに米国ではモトローラ、欧州ではノキア、日本ではパナソニックのように地域ナンバーワンの企業があり、日本国以内でも2000年代初頭には11社の携帯電話端末メーカーが存在していた。