ホンダと日産の統合は自動車“大淘汰”の幕開けか?電機業界の轍を踏まない戦略とは
フォルクスワーゲングループやステランティスなどの企業グループでは、高級車から大衆車までセグメントの違うブランドが存在し、棲み分け、売り分けができているが、ホンダと日産ではそれほど大きなマーケットの違いはない。 また、日産の強みは従来、北米と中国にあったが、その両方で現在苦戦している状況である。さらに、東南アジアのピックアップトラックなどの事業もユニークではあるが、それだけ見れば、三菱の方が特徴的とも言える。ホンダと日産の経営統合が1+1=2より小さくなってしまわないか、懸念は残る。 ● 急速なEV化の流れが鈍化 HV再評価は統合後の明るい材料 1+1が2より大きくなるような施策も必要だ。EVや自動運転のためのソフトウエアのプラットフォームの共有も重要だが、足元の2030~2035年という断面での既存事業の協業も重要となる。 昨今、急速なEV化の流れは鈍化し、HVが再評価されてきている。しかし、日産はe-POWERというシリーズ方式のハイブリッド技術は有しているものの、燃費面でそれほど優れているわけではなく、トヨタやホンダに比べると見劣りする。 他方でホンダは、これまで様々なハイブリッド技術を製品化してきたが、近年ではe:HEV (EVに近いハイブリッド)と呼ばれるスプリット方式のハイブリッド技術に統一している。e:HEVはトヨタのTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)に対抗できる技術であり、これを日産や三菱などと共有し、今すぐに売れる車を作っていくことが重要ではないだろうか。 これであれば、日産に売れる車がない足もとの状況にわりとすぐに対応できるし、ホンダにしてもHVの開発コストの回収がよりしやすくなる。なによりも、EV普及までの両社のつなぎ的な稼ぎ頭にすることができるであろう。
欲を言えば、ホンダのHVシステムをプラットフォーム化して、トヨタとBMWの関係のようにホンダ・日産のグループ外への外販も進めることも必要なのではないだろうか。将来的にEVや自動運転の技術をできるだけ広くばらまく必要が出てくるはずなので、ホンダ・日産のEVや自動運転のプラットフォームの外販は、いずれ考えなければならない話だ。そのときのためのグループ作りの手段としても、すぐに稼げるHVシステムの外販は戦略的な手札の一つになるかもしれない。 ● 両社の風土の違いは 「両利きの組織」を育てるか また、ホンダと日産の経営統合については、多くのメディアが両社の企業文化の違いが統合の妨げになるのではないかと指摘しているが、消極的な意味においては、数を狙う再編の波の中でこれは乗り越えなければならない試練であると同時に、積極的な意味においては、両社の違いをむしろ組織の多様性として活用すべきではないだろうか。 今回の統合では、持株会社の下に両社がぶら下がる方式になると見られる。一つの会社に融合する必要はなさそうだ。そうであるなら、伝統的な大企業気質で効率を重視する日産とベンチャー気質のホンダは、丁度活用と探索をそれぞれ得意とする組織と言うことができ、経営者が上手く両者の違いを使い分けることができるのであれば、「両利きの組織」の良いお手本へと育てることができるかもしれない。 効率重視の日産においては、グループ全体の共通プラットフォームを使い、しっかりと活用して既存事業で収益を上げながら、将来のEV化に備えるビジネスを行う。一方のホンダは、ソニーとの合弁のように新しい試みをチャレンジしていく探索の能力を強化させていく。そういった、組織能力の使い分けをしていくことが重要であろう。 デジタル化が進む今の時代において、数は追わなければならない、しかし、単に数合わせの合併では単なる弱者連合に終わってしまう可能性もある。ホンダと日産で、既存事業分野でもしっかり協業をしてくことと、両社の組織の違いを上手く「両利きの経営」に生かしていくことが、今後の成否を分ける重要なメルクマールになるのではないだろうか。 (早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 長内 厚)
長内 厚