「おひとりさま」で末期がんと…医療ジャーナリストが体当たりで描く新時代の「闘病記」が示す希望
「あるとき保険会社からハガキが来て、『がんと診断されたらお電話ください』みたいなことが書いてあるので電話してみたら、もしかしたらお金がおりるかもしれないから、念のため診断書を取り寄せて送ってくださいと言われたんです。 診断書を取り寄せるにも7000円ほどかかるわけですが、とりあえずこれも原稿に書けばいいと思い、診断書を取り寄せて送ったら100万円が振り込まれた。保険のことは別れた女房任せだったので全然知らなかったんですが、保険代理店に問い合わせたら丁寧に説明してくれた。本当に助かりました」 ◆「おひとりさま」での闘病…並行して「終活」も開始 基本的に元気とはいえ、もちろん「できなくなったこと」もある。「会いたい人に会っておく」ことなども着々と進めるほか、特に骨転移以降はホルモン治療の副作用で骨粗しょう症になりやすいため、「骨折」が大敵で、趣味のスキーやマラソン、草野球を次々に引退。 さらに、1996年から続けていた合唱団も、’23年10月の演奏会で友人や仕事仲間などに見守られる中、「第九」を歌って引退。その直後に丸刈りにし、抗がん剤治療を開始した。 「おひとりさま」の闘病について、長田さんは率直な思いをこう語る。 「独り身で良かったのは、とにかく心配かけずに済むことですよね。特に僕の場合、2人目の女房は看護師さんだったので、いてくれたら助かっただろうとは思いますが、その一方で女房がいたら悩むはずなので、離婚した後にがんが発覚して良かったなと思います。それに、もし子どもでもいたら後のことが心配で大変ですから、そこは良かったですね」 長田さんは並行して「終活」も開始。弁護士に依頼し、死後の計画や希望を伝える中で、以下のアドバイスを受けた。 ・銀行預金の口座はなるべく一本化しておく ・保有株式は早めに現金化しておく ・自筆証書遺言は『手書き』でないと認められないので、自分で書けるうちに書いておく ・遺言状に弁護士の取り分を明記しておく 粛々と終活を進める一方、当然ながら執着もある。 「株式は現金化しておくように言われましたけど、まだやっていない。持っている株の中には株価が上昇傾向の銘柄もあり、いま売るべきかどうか悩ましいところなんです。それに、エアコンも壊れてしまって、迷ったけれど、昨今の酷暑を乗り切るために仕方なく買った。加湿器も買ったんですよ。 ああしたい・こうしたいはいっぱい残っている。大好きな香港には去年は2回行き、今年も3月に行く予定です。今後は仕事もやりたい仕事だけに絞っていきたいと思っています。 余命半年のリビングニーズ特約(被保険者の余命が6ヵ月以内と医師に判断されたとき、死亡保険の全部または一部を特定状態保険金として受け取ることができる)も下りて900万円がどさっと振り込まれたので、少しは贅沢しようかと思ったけれど、意外に使えないものですね。 結局、スーパーで買い物しても今まで通り2割引ばっかり買っているわけ。冷凍チャーハン2つ買ったことくらいがせいぜいの贅沢で、今までケチケチ生きてきた人間だから急には贅沢できないんですよ」 「葬儀はやらない」と言う長田さんだが、今後楽しみにしていることがある。 「仲のいい編集者たちに『長田昭二さんを送る会』をやってもらうことになっているんです。そのときに配る『記念誌』を作る予定で、担当編集者も決まっている。その編集作業が僕は楽しみで、グラビアの撮影も進んでいます」 今も前向きに明るく日々を過ごし、先の楽しみをいくつも持ち続ける長田さん。これまでの「末期がん」のイメージを大きく覆す新時代の「闘病記」は、闘病中の人や家族、また、漠然と病への恐怖を抱く人の心に希望を灯す存在になりそうだ。 取材・文:田幸和歌子
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