習近平主席がヨーロッパ3国を訪問~東欧に映るウクライナ戦争への思惑
もちろん、ウクライナで起きている戦争について、中国は現在も、ロシアと同一歩調を取っているわけではない。だが、ウクライナ侵攻を、NATOのせいにする、というのはロシアのプーチン大統領と同じだ。ウクライナ戦争を機に、アメリカ、そしてアメリカが主導するNATOを非難する材料にしている。 ■中国と似通った立場にあるNATO加盟国 そのセルビアはNATOには加盟していない。一方で、習近平主席のその次の訪問先、ハンガリーはNATOに加盟している。 「中国が大切にする節目」の話に戻れば、ハンガリーと中国は今年、国交樹立75周年。今年は共産党による中華人民共和国誕生75周年。つまり、ハンガリーは現在の中国が生まれると即座に、国交を樹立した「古くからの友人」であるわけだ。ハンガリーには、世界最大の電気自動車(EV)メーカーBYD(比亜迪)など中国企業が多数、進出している。 ウクライナとの関係でいえば、ハンガリーはウクライナと国境を接している。国境に近いウクライナ西部には、ハンガリー語を日常的に話すハンガリー系の住民が多数住んでいる。ハンガリーのオルバン首相の専制的な手法を支えているのが、民族主義だ。ウクライナ西部のハンガリー系住民に自治権を持たせるよう主張してきた。それは現在のウクライナ政権の考えと対立する。オルバン首相はウクライナ危機を利用しながら、民族意識の高揚、自らの求心力を高まることを目指しているように見える。 なにより、ハンガリーはNATO加盟国でありながら、NATOがウクライナへ武器を提供することに反対している。述べてきたように、NATO、それにウクライナというテーマにおいて、ハンガリーは中国とある意味、似通った立場にあると言ってもいいかもしれない。 セルビアにしてもハンガリーにしても、中国は歴史的な結びつき、経済的な結びつきが強い。それをテコに、2国間の関係にとどまらず、ヨーロッパへの浸透を図る。そして、そこにはウクライナ紛争へのスタンス、そしてロシアやNATOへのスタンスも、中国は計算に入れている。
中国は、アメリカとの関係が順調にいくとは考えていない。ロシアとは同床異夢だが、習近平主席がいま、ヨーロッパで行っている外遊は、結果として、ロシアを利すことになり、アメリカを揺さぶることになっているのではないか。私にはそうみえる。 ■飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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