「百貨店をたたみます」。市への一報に衝撃…は走らなかった。列車で30分先、隣県に百貨店が2つある。一不採算部門の閉鎖にすぎない「一畑」。雇用、顧客ニーズは山形屋と大きく異なる
島根県唯一の「一畑百貨店」が閉店して半年。松江市などによると、従業員の大半で再就職が決まるなど、担当者らは「今のところ地域経済への影響は少ない」と口をそろえる。これが山形屋(鹿児島市)ならどうなるのだろう。商圏や事業規模、地理的特性など相違点は多く、専門家は経済への余波を指摘する。にぎわい創出をはじめ、雇用確保や顧客ニーズの観点から、鹿児島における山形屋の立ち位置が見えてきた。 【写真】〈関連〉島根県にある一畑百貨店跡地と、隣接する鳥取県にある2デパートの位置関係を地図で確認する
「百貨店をたたみます」-。松江市役所に一畑百貨店閉店の一報が入ったのは2023年5月31日。市商工企画課の職員は「相談ではなく決定事項としての報告だった」と明かす。別の職員は「テナントもスカスカで、正直もう持たない雰囲気はあった」と驚きはなかったと振り返る。 閉店は半年後だったが、市は県や松江商工会議所などと手を組み、雇用や取引先企業を支援する対策チームを立ち上げた。100人以上の従業員の再就職先を確保するため、県内企業からの求人を依頼。「まだ店頭で頑張っている人がいる中、引け目もあった」と担当者は話すが、先手を打った対策が功を奏しサービス業を中心に約90社から申し出があった。人手不足も後押しし、今年6月までに7割以上の職が決まった。 「もし山形屋だったら、そううまく進まないだろう」と話すのは、鹿児島国際大学の松本俊哉准教授(産業経済学)。一畑の10倍以上のグループ従業員約1530人を抱える山形屋の再就職先確保は容易ではないとみる。顧客ニーズの観点からも「山形屋の存続は求められていた」とみる。
松江市から東に30キロ、列車で約30分の鳥取県米子市にはJU米子高島屋、米子しんまち天満屋という2つの百貨店がある。「米子に行くことも多い。一畑がなくなっても困らない」と松江市の60代女性が話すように、松江の場合、隣県へのアクセスも良く、代替利用できる百貨店がある。山形屋や宮崎山形屋(宮崎市)がなくなれば、最寄りは熊本市の鶴屋百貨店。九州新幹線で時間的には身近なものの、距離や乗車賃を勘案すると気軽とはならない。 一畑グループは鉄道やバス、観光、不動産と幅広く事業を展開。閉店は一不採算部門の閉鎖に過ぎない。一方で山形屋は百貨店事業が主体。閉店は破たんに直結しかねず、雇用はもちろん県民への影響も大きいとして、メインバンクの鹿児島銀行をはじめ、閉店という選択肢は当初からなかったとも聞く。 山形屋は5月、私的整理の一種「事業再生ADR」を活用し、金融機関の支援を受けながら5年間の再生計画に乗り出した。「多くの人は金融機関の預金者で、間接的に山形屋を支援していることになる。ADRの成立時点で県民を巻き込んだ再生に踏み切ったといえる」と松本准教授。新型コロナウイルス禍が落ち着いたとしても再建への道のりは厳しいことに変わりはない。県民も当事者意識を持ち、厳しい目で見守る必要があると指摘した。
※2024年6月24日付掲載、連載「山形屋再建~百貨店消えた松江㊦」より
南日本新聞 | 鹿児島
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