台風予測の番人、実測値で真の姿観測 小型機で「眼」に貫入飛行 気象学者・坪木和久さん『激甚気象はなぜ起こる』
「気象庁の進路予報はかなり改善されたとは思う。でも、中心気圧値などの強度予報は未熟。気象衛星のデータだけで推測しているので誤差が大きいです。そこで2017年10月21日、共同研究者・琉球大学の山田広幸先生(今年10月28日死去)と共に鹿児島空港を小型ジェット機で飛び立ち、沖縄本島南東海上の高度約13・8キロへ。スーパー台風ラン(台風21号)観測のためでした」
――超大型の台風でした
「当初は台風の周囲を飛行しながらのデータ取得を考えていたのが、眼を取り巻く分厚い積乱雲群『眼の壁雲』のわずかな隙間を見つけた山田先生は、パイロットと相談し眼への貫入飛行を決断します。キャビンで観測機器などの最終点検をしていた私はその知らせを聞いて即、はい、行きましょうと応えました。2日間で眼への計3回のダイビング、また周囲を回りながら26個のドロップゾンデを投下し気温や湿度、気圧などの真値を取る、興奮しましたね」
――日本人研修者が日本の飛行機で台風の眼に世界で初めて入った瞬間でした
「ガタガタと激しく揺れていた機体が突如静まり返り、すうっと視界が開けて―。私たちは直径90キロはあろうかという目の中にいたんです。周囲を背の高い眼の壁雲がぐるりと取り巻き、眼下には青緑色の荒れ狂う海。そこはまさに神々の庭、感動で体が震えました」
――推定値との差は
「気象庁の推定値935hPa(ヘクトパスカル)より10hPaも低かった。約1時間の飛行で台風は予報以上に発達していることを確認。翌日の飛行では中心気圧は数hPaも上昇していて、台風は衰退期に入ろうとしていました。気象庁では台風は発達傾向と推定していたので、実際は正反対だったわけです」
――真値活用に問題が
「回線が弱く全観測データの1%未満しか送信できない。また航空機は他の研究分野との共有なので観測可能な台風は9月から10月中旬に発生する1個、2日間で7時間しかない。アメリカは10機の専用機で年間600時間、韓国や台湾も自前の専用機を持ち400時間前後の観測を続けている。台風観測用の専用機があればと思います」