花王が実践する仕事と介護の両立支援。カギは「当事者の声」と「啓発」
コロナ禍を経て働き方が変わったからこそリアルな声を聞きにいく
――コロナ禍の緊急事態宣言により、半強制的に在宅勤務への移行を迫られたことは、仕事と介護の両立が必要な人にとって追い風になった側面もあるかと思います。働き方の変化を感じることはありますか。 荒川:以前から在宅勤務制度はありましたが、介護や育児など事情のある社員が1週間のうち2日間を上限として使える、一部の社員向けの働き方という側面がありました。しかし新型コロナウイルスの流行によって、多くの社員の在宅勤務を可能とする環境が整い、社内で一気に浸透しました。 現在は社会情勢がやや落ち着いたことを受け、業務特性に応じた出社となっていますが、会議は対面とオンラインのハイブリッド形式で行われるなど、「誰かがオフィス以外で働いている」状況が当たり前になっています。そのため、介護や育児などと両立させながら、在宅勤務で仕事をすることに対して、当事者社員が後ろめたさを感じることは以前より減ったのではないかと思います。 ――今後はどのような支援を行っていくのでしょうか。 齋藤:社員の介護の状況を把握するためのアンケートやヒアリングは、2016年頃まで継続的に行っていたのですが、アフターコロナになった現在の実態や課題は把握できていません。介護両立のために休暇や休職を利用する一歩手前の状況にある社員や、育児と介護の両方が必要なダブルケアラーとなっている社員、管理職で介護との両立が必要な社員などがどの程度いるのか。また、現行制度下において、必要な人が必要なときに制度を使えているのか、どのような困りごとがあるのかを改めて調査しなければならないと感じています。当事者の声を聞く、というのは当社の原点ですから。 特に「制度を利用したかったのに利用できなかった」社員など、数字には表れない実態を見逃さないように注意が必要です。そういう社員がいるなら、原因は業務量の多さなのか、管理職や周囲のメンバーとの関係性にあるのかなど、職場での困りごとをきちんと聞いたうえで、必要に応じて新たな制度や運用、支援を検討するなど、何らかの手を打っていかなければと考えています。 多くの社員が何らかの事情を抱えて仕事をしています。それらを隠すことなく話すことのできる雰囲気や、お互いさま意識で支え合う風土は、対話と啓発によって少しずつつくられていくものなので、今後も継続していきます。