花王が実践する仕事と介護の両立支援。カギは「当事者の声」と「啓発」
人事は介護支援制度を整え、その啓発を繰り返すことが重要
――「社員に介護支援の制度が知られていない」など、両立支援の推進で悩む人事担当者は多いようです。人事担当者として、社員が仕事と介護を安心して両立するためにどのようなサポートをしていけばいいのでしょうか。 齋藤:まずは、自社に必要な支援制度が整っているのかをあらためて確認することが第一です。ひと口に介護と言っても、関わり方や状況は人によって全く違います。利用者数が少なくても、ニーズのあるところには選択肢を用意することが大切です。「あまり使われていないからこのメニューは不要」というものはありません。社員に必要なサポートがそろっているか、当事者の声を聞きながら確認することが大事だと考えています。 荒川:そのうえで、いざというときに頼れる窓口やサポート体制・制度があることについて、社員に認知してもらうための啓発活動は、手を変え、品を変え、繰り返し取り組んでいく必要があります。 例えば当社では、コロナ禍で対面のセミナーが実施できなくなった際には、「介護両立ハンドブック」の特に重要なポイントを解説した1本10分前後の動画をつくり、昼休みなどの隙間時間に気軽に見てもらえるようにしました。 また、イントラネットでの案内に加えて、対象社員向けの個別メール配信も適宜行っています。今年は、厚生労働省が定める「介護の日(11月11日)」を含む1ヵ月間を啓発月間とし、さまざまな介護両立関連のコンテンツや情報を周知する予定です。 私たちの部署から情報発信する際は「Diversity, Equity and Inclusion(DE&I)」と記した共通のアイコンを付けているのですが、最近は「DE&Iのロゴが付いているものは全て見ています」という社員も出てきています。 一方で、何年も前からあらゆる手段で繰り返し伝えていても、ポータルや各取り組みについて「初めて知りました」と言われることはまだあります。こちらが「伝えている」と思っていても、実際に社員に「伝わっている」こととは違うのだと心得て、社員の目に触れる機会を一つでも多くつくり、継続することが重要だと考えています。 齋藤:外部の専門家の手を借りることも大切です。客観的に見て自社の制度のどのような点が優れていて、何が足りないのかといった意見をもらうことで、自社の状況や効果的な活用の提案方法が見えてくることもあります。社員にとっても、第三者から聞くことで信頼性が高まり、制度の特徴や使い方を理解しやすくなるというメリットもあるようです。 ――介護との両立により働く時間が短くなることで、評価に影響があるのではないかと不安に思う人もいそうです。 齋藤:実際に社員からそうした声が耳に入ることもありますが、働いた時間の長さそのものが人事考課に影響することはありません。あくまで当期の目標に対する成果で判断します。介護に限らず、育児や社員自身・家族の病気などさまざまな事情で、勤務時間を調整する必要が生じる可能性は誰にでもあるものです。 どのような状況においても、社員一人ひとりが高い意欲と能力を発揮してパフォーマンスを発揮できるようマネジメントするのが管理職の役割であり、評価においては成果に基づいて公正な判断をすることが大切であると考えています。そのためのトレーニングを継続することなども重要な取り組みの一つです。