『ノーヴィス』ローレン・ハダウェイ監督 “没頭”が人生に目的を与える【Director’s Interview Vol.448】
多くの監督は音響を気にしない
Q:音響デザインで数々の作品を生み出されてきましたが、最終ジャッジはそれぞれの作品の監督にあったかと思います。今回は監督として、これまでトライしたかったことを盛り込んだ部分はありますか。 ハダウェイ:正直な話、多くの監督は音に関してそれほど知らないし気にしてもいない。私が情熱的に「こうやった方がいいですよ!」と提案すると、「じゃ、やっといて」みたいな感じでした。だから意外と、自分のやりたいことはやれていたんです。ただ、以前に観た『わたしに会うまでの1600キロ』(14)でやっていた“音のモンタージュ”には、一度トライしたいと思っていました。その映画の中で主人公のリース・ウィザースプーンがクレイジーになっていくシーンがあるのですが、そこでは音がモーフィングするように変わっていて、そのスタイルがすごくいいなと。これはいつか使いたいと思っていました。これまで音響を担当した映画では使う機会がなかったのですが、この映画を作る際に取り入れることが出来ました。アレックスがだんだんクレイジーになっていくにつれて、音もモーフィングするよう変容していく。他の映画ではあまり使われていない効果だと思います。 Q:音響デザインの経験が監督の仕事に生かされていますが、キャリアとして、なぜ音響デザインから監督を目指そうと思われたのでしょうか。 ハダウェイ:15歳のときに『キル・ビル』(03)を観て、監督になりたいと思いました。それで映画の勉強をしに大学に行きましたが、そこで自分が田舎者だと気づくわけです。映画の勉強をしている人は、ほとんどがお金持ちの男性で自信に満ち溢れている人ばかり。こういう人たちが監督をするのであれば、私には出来ないなと…。 脚本は「映画制作中3回書かれる」という通説があって、脚本執筆、撮影、編集のときに書かれると言われています。その中の編集であれば、周りにクルーもいないし、暗い部屋でコツコツ仕事をするだけ。それであれば私でも出来るかなと。それでポストプロダクションの仕事を始め、そこで音響デザインに出会いました。先ほども言いましたが、ほとんどの監督は音響のことなんて全然気にしていない。だから競争もそれほどありませんでした。 映画を作る人はものすごく創造的で才能のある人だと思っていましたが、実はそうでもない。映画産業で働いてみてそれが分かりました。私はそれほど才能がないから監督は出来ないと思っていたのですが、こういう人たちが映画を作れるのであれば、私でも作れるかもしれない。ある意味皮肉なのですが、音響デザイナーとして成功したことによって、自分が監督出来るかもしれないという勇気と自信、そして閃きが得ることが出来たのです。 監督/脚本/編集:ローレン・ハダウェイ 1989年8月25日、テキサス州ポッサム・トロット生まれ。10代の頃に偶然観たクエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』(03)から、大きな影響を受け、映画監督を志す。サザンメソジスト大学でビジネスと映画をダブル専攻して卒業、音響デザインのキャリアを極めるためにロサンゼルスに移住。その3年後には『ヘイトフル・エイト』(15)のダイアログ監修として、尊敬するタランティーノと共にレコーディングスタジオ入りを果たした。音響編集とミキシングで、『パシフィック・リム』(13)、『セッション』(13)、『不屈の男 アンブロークン』(14)『ダイバージェント NEO』(15)、『死霊館 エンフィールド事件』(16)、『ジャスティス・リーグ』(17)など、多くの大作長編映画に携わっている。2016 年、彼女は長編映画の脚本を書き監督になることを自らに課し、『ノーヴィス』を完成させた。本作は 2021 年のトライベッカ映画祭でプレミア上映され、最優秀米国長編劇映画賞を受賞したほか、イザベル・ファーマンとトッド・マーティンがそれぞれ最優秀女優賞と最優秀撮影賞を受賞するなど、批評家からも高い評価を得た。2018 年には映像業界の LGBTQIA+コミュニティを支援するアウトフェストが主催するアウトフェスト脚本ラボのフェローを務めた。 取材・文:香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 『ノーヴィス』 11月1日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネリーブル池袋、シネマート新宿、ほか全国順次ロードショー 配給:AMGエンタテインメント ©The Novice, LLC 2021
香田史生
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