大規模な構造改革の途中での方向転換が示すインテルの苦境と、急成長するエヌビディアを含むテクノロジー産業全体への影響
■半導体業界における事業環境の変化 12月1日、インテルはCEOのパット・ゲルシンガー氏が退任したことを発表した。 【写真で見る】インテルのパット・ゲルシンガーCEO インテルは大規模な事業の構造改革を進めていた最中であったが、その成果を評価できるゴールにたどり着く前に方向転換することになった。このことはインテル自身の苦境も示しているが、半導体業界の事業環境が大きく変化する地殻変動を代表する事例でもある。 急成長しているエヌビディアも含め、今後のテクノロジー産業全体を占う象徴的な事例でもあるため、その背景に関して整理したうえでコラムを書き進めることにしたい。
インテルといえばパソコンの心臓部であるプロセッサで圧倒的な市場シェアを持ち、安定したキャッシュフローの中で、半導体製造技術でもかつてはトップを走り続けていた支配者だった。 彼らの事業はソフトウェアの互換性、コンピュータハードウェアの産業構造などにも助けられ、盤石のものであるとかつては考えられていた。しかし事業環境は変化し、インテルは未来への成長を描けないまま、先端半導体の技術開発での存在感を失っていた。
この状況を打破するため、かつてインテルのエースエンジニアであり、上席幹部であったにもかかわらず社外に転出していたパット・ゲルシンガー氏がインテルCEOとして復帰したのは2021年のことだった。 ■ゲルシンガーの野心と戦略の限界 ゲルシンガー体制下で進められたのは、最先端の半導体製造技術の技術開発と大規模な生産工場を持ち、その工場の能力を生かして優位性のあるチップを高付加価値で販売することで、市場を支配していたインテルのビジネスモデルを現代の市場環境に適応させることだった。
この戦略はIDM 2.0と呼ばれ、「5N4Y(4年で5世代分の技術革新)」と名付けた積極的な技術への投資、Intel Foundry Services(IFS)を通じ自社工場の生産能力を外部顧客向けに提供するファウンドリ(委託生産)事業の展開による稼働率向上、そして自社製品の生産における外部ファウンドリの活用という3つの柱からなっていた。 しかしこの戦略には大きな痛みが伴う。 巨額の設備投資は財務を圧迫し、先端技術の開発にかかる時間やリソースは予想を超えがちだ。競合のTSMCも同時期に同様の技術開発を進めており、技術的優位性を確保することも難しい。