認知症にはいい面もある?生物学者が「認知症を悲観的にとらえなくてもいい」と言う理由
認知症患者が年々増加しているなか、老後の発症を恐れている人は少なくないだろう。認知症というと絶望的でネガティブなイメージしか沸かないが「認知症にもいい面はある」と生物学者の池田清彦氏は語る。その意外な理由とは?※本稿は、池田清彦(著)、南 伸坊(著)『老後は上機嫌』(ちくま新書、筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 生物が環境にあわせる 「適応論」が怪しい理由 南伸坊(以下、南) 僕は、池田さんに会ったら、聞きたいと思っていたことがあって。 池田清彦(以下、池田) なに? 南 擬態の話。どうやったらあんなにソックリになるのかって……。 池田 あっちこっちで、だいぶ話しているんだけど、擬態は半分はインチキだと思っている。普通は「こういう形だから、この生物はうまく生きてるんですよ」って言うじゃん。でも俺の考えでは「変な形であっても、死なないで生きてる」と言うべきだと思うよ。 生物には、大きさに応じて斑紋パターンを決定する変換関数みたいなのがあって、例えば、あるグループだと、このぐらいの大きさになるとこういう斑紋になるとか、決まってくるんだよね。 それが、たまたま生息している場所の植物の色とかに似てると、擬態とか言うんだけど、生存に有利な形質のものが子孫を残すという自然選択の結果、徐々に似てくるわけじゃないと思う。もちろん、似た後で機能する場合もある。似てるから、他の生物に食われにくいとか。だけど、機能しない見てくれだけの擬態もあると思うよ。 南 熱帯のジャングルにいるコノハムシとか、ものすごく上手じゃないですか。虫なのに、葉っぱにしか見えない。むちゃくちゃ手がこんでる。
池田 コノハムシの雄は擬態しないし、飛ぶんだよ。雌だけだよ、飛べなくて、あんなにのろのろとしか動けないのは。葉っぱに擬態しなかったら、すぐ食われちゃうのかもね。 南 葉っぱに似てるやつが、生き残ったってこと? 池田 とりあえずそうだろうと思う。雄だってちゃんと生きてんだから、雌も雄と同じように飛べば、別に擬態しなくても死なずに生き残るはずでしょう。なんで、雄は擬態しないで、雌だけあんなややこしい擬態をするんだって思うわけだよ。そういうことについては説明しないで、都合のいい説明だけする。だから、生物が環境に合わせる適応論って怪しいんだよ。 ● ナマケモノが絶滅しないよう オウギワシはコントロールしている? 池田 ナマケモノも擬態しているから死なないっていわれるけど、食われそうになったら擬態なんかしてないで、とっとと逃げればいいじゃん。何で、あんなにじっとして動かないんだ? 南 なまけ者だからでしょ(笑)。 池田 よく生きてると思うよ、絶滅してもおかしくないのに。ナマケモノは、オウギワシに食われちゃうんだよね。オウギワシは全長1メートル、翼を広げると2メートルにもなる世界最強の猛禽類で、餌の半分以上はナマケモノなんだよ。ナマケモノがいなくなったら、多分、生存できないと思う。 南 オウギワシ、なまけ者に依存して生きてる(笑)。