有明海上にどこまでも続くたくさんの長方形。その正体は…6年間佐賀に通う『孤独のグルメ』久住昌之があの養殖の秘密を現地取材
◆アメリカ人は海苔を食べない? いやぁ、あらためて考えてみたら、日本人は日常的にいろんな食べ方で様々な方法で、とても頻繁に海苔を食べている。そう考えると、あのくらい広い海苔畑(?)も必要だ。 これほど海苔を摂取している国はほかにあるだろうか。ないと思う。韓国だって、日本ほどは食べないだろう。 欧米に海苔料理は皆無と言っていい(と思う)。 アメリカ人は、せんべいは喜んで食べるが、海苔せんにはほぼ100%手を付けない。と、ニューヨークに住む友人が話していた。 なんで? と聞いたら、友人は「食べる習慣がないから、真っ黒くてちょっと不気味なんじゃない?」と言っていた。うーん、いまいち釈然としない。 話が逸れまくっているが、とにかく、この小さな島国では、もの凄い量の海苔が消費されている。 当然それに見合うだけの海苔が収穫されなければならないわけで、あのくらいの面積は必要かもしれない。今まで考えたこともなかった。って、ぼーっと生きてんじゃねえよ!
◆海苔漁師さんに話を聞く 佐賀に通うようになると、そのことを度々エッセイに書くようになった。そうなると仕事として佐賀で「取材」する必要も出てくる。 そんな流れで、ボクは佐賀市諸富町の若き海苔漁師・横尾雅也さんを訪ねた。 朝、佐賀市諸富町にある横尾さんの自宅に寄らせてもらう。生まれ育った家だ。近隣の家もみな海苔漁師だそうだ。 庭には海苔の乾燥室があった。採れたばかりのドロドロの海苔をここで、紙漉のように薄く漉いて、乾燥させ、板海苔にする。 見せてもらったが、ベルトコンベアから四角い海苔がすごいスピードで出てきて、重なって、束ねられていく。これを工場に出荷し、さらに加工して、焼き海苔ができあがる。 横尾さんの父も祖父も海苔漁師で、海苔漁は今や雅也さんの仕事だが、乾燥の作業はご両親がしている。 横尾さんに海苔の養殖の仕方を聞いた。これも今まで考えたことがなかった。六十余年、食べてきたのに。 夏の間、牡蠣の貝殻の中で海苔の胞子を育てる。そして秋、海水が冷たくなった時、胞子を貝殻から出して、落下傘と呼ばれる袋に入れ、網につけて海上に張る。 しばらくすると牡蠣殻から出てきた胞子が網に付く。そしてそこから海苔の芽が出る。それが30センチほどに伸びたら、海苔の収穫が始まる。この時最初に採れるのが「一番海苔」だ。