2024年は飛躍に向けた土壌作りの年、税制改正でアセットの広がりに期待【デジタル証券フォーラム2024 イベントレポート 前編】
2024年のST発行累計額は伸び悩み
次に登壇したProgmat 代表取締役 Founder and CEO 齊藤達哉氏は、「デジタル証券の国内外の現在地、鍵となる信託税制変化と方向性」と題した講演を行った。齊藤氏はProgmatについて、「デジタル証券とデジタル通貨のナショナルインフラを目指すスタートアップ」と紹介した。 最初にデジタル証券の国内外の現在地について解説。縦軸を「ユーザー」として「リテール」か「機関投資家、法人」に分け、横軸を「主たる生活圏」として「オフチェーン」と「オンチェーン」に分ける4象限の図を示した。 「米国市場は『機関投資家、法人』で『オンチェーン』のエリアの商品提供が活発だ。また欧州は『機関投資家、法人』かつ『オフチェーン』エリアで中央銀行がデジタル通貨などのPoCに取り組んでいる印象がある」 一方、日本は「オフチェーン」での「リテール」向けの商品としてデジタル証券が出てきている認識だと述べた。 「証券会社の顧客向けに、不動産を中心としたオルタナティブ投資の選択肢のひとつとして、活況を呈していると言えるだろう」 次に、2024年の市場を振り返り、前年との差分を見てみると、次の3つのポイントがあったと指摘する。1つは、ST発行や管理基盤を提供する企業が増えたこと。2つ目が、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)「START」が始まり、セカンダリー市場での取引が拡大していること。そして3つ目が、RWA(リアルワールドアセット)を裏付けとしたSTも登場したことだ。 「映画の持分を裏付けとしたデジタル証券は、今年初めて出てきたものだ」 またST市場規模をみると、ST発行累計額は2024年末時点で1486億円となる見込み。右肩上がりではあるものの、2024年は伸び率が鈍化し、「年初に期待していた値には届いていない」。新規発行数は、2024年が18本で、2023年と同数に留まった。2024年は、第1四半期までは発行ペースは順調だったが、6月以降、新規発行が一時停止していた期間があった。 「この時期は、税制改正要望に向けた議論を信託各社で行っていた。税制改正が各社の想定通りに実現する場合には、不動産STの実務変更が想定されるところ、信託各社とも従前実務を前提とした新規発行に慎重な姿勢を示していた」と齊藤氏は説明する。 その税制改正の要望とは、「『元本払い戻し』にかかる課税関係の明確化」と「『純資産計上される評価・換算差額等』の留保金除外」という2点だ。内容は非常にテクニカルなため割愛するが、この要望が実現する場合の不動産STへの影響を見極めるのに時間がかかったのだという。結果として、不動産ST発行にかかる諸論点につき対応可能であることが確認され、秋口より新規発行が再開された。 最後に、齊藤氏は2025年に向けたProgmatの展望を語った。 「ようやくステーブルコインの準備が整いつつある。来年は、ステーブルコインを活用したSTが出てくるだろう。また将来的には、暗号資産とデジタル証券の規制の壁が溶けてくることも考えらえる。パーミッションドチェーンとパーミッションレスチェーンのどちらのブロックチェーンにもスタンスを取れるように臨んでいきたい」