在日インドネシア人ならみんな知っている──話題のスーパーフードを山中でつくる、滋賀の「テンペ王」を訪ねて
日本に住むインドネシア人なら誰もが知っている
「ルストノさんのテンペは一番。ほかのとぜんぜん違う」 そう話すのは東京・八王子にあるインドネシア料理店「クタ・バリカフェ」を経営する佐々木スーサンティさん(40)。店ではテンペを使ったメニューがいくつも並ぶ。マニス(インドネシアの甘い醤油)で炒めたもの、豆腐と一緒に唐辛子ソースをかけたもの、テンペと野菜の炒めもの……。 「日本人のお客さんには、テンペ・ゴレン(シンプルに揚げたもの)とか、ガーリック・テンペが人気かな」 毎月80個ほどをルストノさんから仕入れ、さまざまな料理を提供する。 「いろんなテンペを試したけど、ほかの会社のものは柔らかすぎたり、酸っぱかったり。やっぱりルストノさんのものがいい。冷蔵しても味が落ちないし。私も個人的に買っています」
こうしたレストランや、東南アジアの食材店で、「ルスト・テンぺ」はすっかり愛される存在となった。日本に住むインドネシア人なら誰もが「ルスト・テンペ」を知っているほどで、日本人のエスニック好きにもファンは多い。健康食品、自然食品としての引き合いもずいぶん増えた。あの日本全図はもう、マークでいっぱいだ。 ルストノさんの取り組みと熱意は、母国にも伝わった。インドネシアの有力英字紙「ジャカルタ・ポスト」で“日本のテンペ王”と紹介されるまでになったのだ。とはいえルストノさんはいたって謙虚で、「ひとつのものだけを作り続ける職人でありたいんです」と話す。
「日本発のテンペ」に世界から引き合い
日本の原風景のような近江の里山に、ルストノさんはすっかりなじんでいる。 「近くのおばあちゃんが漬けもの食べないかって持ってきてくれて、そのお礼にテンペあげたりね」 塩などちょっとしたものを隣近所で融通し合ったりもする。地元の消防団にも入っている。 「身体はインドネシア、でも心は日本」 なんてルストノさんは笑う。四季折々に移り変わる山の風景がたまらなく好きなのだという。夏の花火、秋のキンモクセイ。冬の雪はちょっとしんどいけれど、みんなで助け合って雪かきもする。