在日インドネシア人ならみんな知っている──話題のスーパーフードを山中でつくる、滋賀の「テンペ王」を訪ねて
こうして地元に溶け込み、つる子さんと力を合わせてテンペをつくり続ける父の背中を、レミナさんはずっと見てきた。 「ふたりで夜中まで働いてて、たいへんなんやなって子供ながらに思ってた」 だから、いつしか両親を手伝うようになった。ゆくゆくは姉と一緒に「ルスト・テンペ」を継ぎたいと思っている。 「ほかの進路も考えたんだけど、パパについていこうって決めたんです」 “日本のテンペ王”は、いまや世界進出も果たしている。きっかけは「ジャカルタ・ポスト」の記事だった。英字紙だから世界各地で読まれ、健康食テンペを自分たちでもつくりたいという人々から問い合わせが殺到した。 「オーストラリア、ポーランド、台湾、メキシコ……いろんな国からテンペのつくり方を勉強しに来るんですよ」(ルストノさん) いわばテンペ留学生を受け入れているのであった。ルストノさんは彼らに、水と大豆へのこだわり、日本の高レベルな食品管理の方法を伝えている。また、自ら海外に出向くこともある。インドネシアの伝統と、日本の環境や技術がフュージョンしたテンペが、国際的な商品となっているのだ。 「次のステップは、テンペをつくりたいという人たちの夢をサポートすることですね」 テンペ王の夢はまだまだ続きそうだ。 ___ 室橋裕和(むろはし・ひろかず) 1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイ・バンコクに10年在住。帰国後はアジア専門の記者・編集者として活動。取材テーマは「アジアに生きる日本人、日本に生きるアジア人」。現在は日本最大の多国籍タウン、新大久保に暮らす。おもな著書は『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(辰巳出版)、『日本の異国 在日外国人の知られざる日常』(晶文社)、『バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記』(イースト・プレス)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書、共編著)など。