「保育園に預けられて、かわいそうに…」働く母親を悩ませるデマに喝!元学長の指摘がスカッとした
ホモ・サピエンスが定住生活をはじめたのは、およそ1万3000年前からです。それ以前の人類は、狩猟と採集によって食料を調達しながら、アフリカからユーラシア大陸→北アメリカ大陸→南アメリカ大陸と移動生活を続けました。人類が世界中に広まったこの旅は、「グレート・ジャーニー」と呼ばれています。 連合王国(イギリス)の人類学者ロビン・ダンバーの研究によると、人間社会の基礎単位「ダンバー数」(安定的な社会関係を維持できる人数の上限)は150人程度とされ、ホモ・サピエンスは、150人規模の集団生活を約19万年にわたって営んでいたと考えられています。 きれいな泉が湧いているなどキャンプに適した場所が見つかると、男も女も森に入っていき狩猟・採集をして、シカを獲とったりハチミツや薬草などを採る。その間、ケガをした人や高齢者が赤ちゃんを集めて集団保育を行う。働ける者が働き、子どもはみんなで面倒を見る。 それがホモ・サピエンスの原初の姿でした。 つまりホモ・サピエンスは、約19万年にわたって集団保育で社会性を獲得してきたのです。
産後鬱の原因のひとつは、母親が3歳児神話に縛られて、24時間365日、赤ちゃんとずっと2人きりでいるからです。3歳児神話をかたくなに信じて、「保育園に預けてはいけない」と論ずる人に、僕はこう聞くようにしています。 「あなたは上司と2人きりで、マンションの一室にこもって仕事をしたいですか?」。 答えは明らかです。嫌に決まっています。育児も介護も集団で行っていたのが、ホモ・サピエンスのファクトです。 ● 「子どもを保育園に預ける」は 健全で正しい選択 「介護は家族が担うもの」「育児は母親が担うもの」などといった戦後日本の一部で見られた家族観は、ホモ・サピエンスの原理・原則に明らかに反しています。 これは、戦後の日本が製造業の工場モデルに過剰適応して、「男は仕事、女は家庭」という性分業を推進したことが主因です。性分業を推進するための制度である「配偶者控除」や「第3号被保険者」が女性の意識を変えました。 加えて、男尊女卑の朱子学に教導された明治以来の国民国家観(日本人は天皇の赤子である。天皇制・家父長制をコアとした国民の創出)が基盤にあったので、なおさらでした。 しかしヒトという種にとっては、「子どもを保育園に預ける」ほうが健全で正しい選択なのです。
出口治明