「感染者が立ち寄った店」知事のひと言で客は消えた…老舗ラーメン店主の絶望 行政のコロナ対応は本当に妥当だった? 今考えたい感染症対策
徳島県藍住町の老舗ラーメン店「王王軒(わんわんけん)」。濃厚な豚骨スープに生卵を乗せた、いわゆる「徳島ラーメン」が県内外の客に愛されている。 退学希望者が続出「幻滅大学」の酷すぎる実態 コロナで浮き彫りになった格差 20年
2020年7月、この店が一躍有名になった。飯泉嘉門・徳島県知事(当時)が、新型コロナウイルス感染者が立ち寄った店として公表したのだ。 すると客足はぱったり途絶えた上、インターネット上に誹謗中傷が次々と書き込まれた。 「コロナ軒に改名しろ」 「ラーメン、コロナ抜きで」 店主の近藤純さん(51)は絶望的な気持ちになった。店名が公表されるとは思ってもいなかったためだ。 徳島県の新型コロナ対応を巡っては、ほかにも「県外ナンバーの車」が暴言や嫌がらせを受けたことも明らかになっている。国内初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから1月15日で4年が経過。今年2024年は「ポストコロナ元年」とも言われる。当時の行政対応は本当に的確だったのだろうか。徳島県を例に振り返ってみると、危うい状況が垣間見えた。(共同通信=米津柊哉、牧野直翔) ▽同意はあったのか?食い違う証言 最初の緊急事態宣言が解除されてから約2カ月後の2020年7月31日、飯泉知事は定例記者会見を開いた。県内20例目のコロナ感染者が、感染確認前に友人らと立ち寄り、食事を約20分間していた店が「王王軒本店」だったと公表した。
店名公表について、飯泉知事は「(店側の)同意をいただけた」と述べた。しかし、店主の近藤さんによると、実際には同意を得ていなかった。 公表の影響は大きく、翌8月の客足は前年比で半減した。書き入れ時の日曜の昼間ですら、客は1~2人。ネット上で中傷も受けた。 「店に短時間立ち寄られただけで公表されるのは納得できない」 近藤さんは県庁に足を運び、被害を訴えたが、話し合いは平行線。県の担当者は「同意をもらったと聞いている」との一点張りだった。 近藤さんの怒りは収まらない。 「県のやり方は一方的でひどい。飲食店の気持ちを理解してくれていない」 ▽手続きの是非問うため、提訴 店名公表は正しかったのか。手続きに問題は無かったのか。是非を問うため、近藤さんは2021年2月、徳島県を相手に賠償請求訴訟を起こした。 店側はクラスター(感染者集団)が未発生で公表の緊急性はなく、店名公表時に風評被害などへの対策が全く無かったとして、以下のように訴えた。