「感染者が立ち寄った店」知事のひと言で客は消えた…老舗ラーメン店主の絶望 行政のコロナ対応は本当に妥当だった? 今考えたい感染症対策
「(店側)にもたらされる不利益の方がはるかに大きく、公表の目的に正当性がなく、公表の手段として相当でないから、店名公表は社会的相当性を著しく欠く」 これに対し、徳島県側は、店名公表が感染症の予防について定めた感染症法や厚生労働省の「事務連絡」の趣旨にのっとった対応だと訴え、こう反論した。「店内はほぼ満席だった上、居合わせた客の追跡は不可能だった。公表は不特定の客に注意喚起をし、感染の拡大防止を図るためだった」 ▽「誰かのために声を上げないといけない」 徳島地裁は2023年1月、徳島県側の主張を大筋で認める判決を下した。「感染の連鎖を止めて収束を図るのが急務だった」として、公表の目的は正当で緊急性もあったと認めた。 判決は店の主張も一部くみ、公表について店側の同意を得ていないと認定した。また「公表が甚大な風評被害を及ぼす恐れがあったことは否定できない」と指摘したものの、①知事は客観的で中立的な事実を公表したに過ぎない②店の名誉を傷つけたり、店を利用すると感染する危険性があると誤認させたりするものではない―とした。
店側は控訴したが、2023年7月の高松高裁判決でも結論は変わらなかった。 近藤さんは判決文を読んで落ち込んだ。 「これ以上、傷つきたくないと思った」。それでも最高裁への上告を決めた。こう思い直したからだ。 「忘れてはいけないこと。黙っていては伝わらず、おかしなことには声を上げたい。『公表』で傷つく人は多いと思う。結果は別として、今後のためにも誰かが声を上げないといけない」 地裁、高裁で認められなかったものの、近藤さんが孤立しているわけではない。訴えに共感した同業者や王王軒のファンは、クラウドファンディングで訴訟費用を支援している。 ▽県外ナンバーへの中傷、暴言、投石も… 徳島県のコロナ対応で、もう一つ波紋を呼んだものがある。「県外ナンバーの調査」だ。 店名公表をする前の2020年4~5月に、徳島県は調査を3回実施した。 当時、県内の感染者はまだ1カ月に2人と少なかった。この時期に、県職員らが目視で高速道路やパチンコ店、観光施設などに来た徳島県外のナンバーを持つ車の台数を数える調査を始めた。