「感染者が立ち寄った店」知事のひと言で客は消えた…老舗ラーメン店主の絶望 行政のコロナ対応は本当に妥当だった? 今考えたい感染症対策
この行為は結果的に、県外ナンバーに対する徳島県民の疑心をかきたてることにつながった。飯泉知事は2020年4月24日の臨時記者会見で、調査によって「県外車への誹謗中傷、暴言、投石、あおり運転が見られるようになった」と明かしている。 「車に傷を入れられた」という苦情も県庁に寄せられた。飯泉知事はこう言って軌道修正を図った。 「強いメッセージになりすぎた。冷静な対応をお願いしたい」 ▽「当時は未知の感染症だった」 この調査について、徳島県は今、どう考えているのだろうか。担当課に尋ねたところ、調査に至った経緯が分かる資料が残っていないとしつつ「判断は妥当だった」と断言した。 担当者はこう説明する。 「当時、県民から『県外ナンバーがたくさん来ている』との不安の声があった。県内4例目となる感染者には県外の行動歴があり、これを受けて対応策を知事や幹部職員、職員で協議して企画した」
当時はまだ、新型コロナウイルスの実態がよく分かっていなかった点もポイントに挙げる。「当時は未知の感染症だった。調査結果によって自粛要請などの対策を検討するための実態の確認として必要性があった」 他県でも同じようなことがあった。長野県も県外ナンバー車の調査を実施している。山形県などは、県外ナンバーの車に乗る県民向けに「県内在住確認書」を交付し、「差別助長」との批判を受けた。 ▽「人が人を疑う状況の一端が現れている」 専門家はどう見るのだろう。地方自治を専門とする香川大の三野靖教授は、当時の徳島県の対応の妥当性についてこう指摘している。 「二つの施策から言えるのは、人が人を疑う状況の一端が現れていること。行政が結果的にこの状況を扇動することになった。 まず、店名公表は、科学的根拠がはっきりとしない中で行うとリスクがある。店に20分間いて、どの程度の人に感染する恐れがあったかは誰も証明できない。公表は信用失墜を招く事実上の社会的制裁となり得るが、法的手続きがあいまいだ。公表された側は、損害賠償請求くらいしか対抗手段がない。弁明の機会や補償の仕組みを設けるべきだった。
次に、県外車調査は、県民、市民が県のメッセージをどう受け止めるか想像する必要性があった。『知事が言っているからけしからん。車に石を投げてもいい』となりかねず、自警団のような行為につながる可能性がある。影響を冷静に考え『あくまで統計調査』などと伝えるべきだった。 教訓を整理し、次のパンデミック(感染症の大流行)に備えるべきだ」