新規1年目の売上1000万円超――支援制度が充実、宮崎で農業に挑む移住者たち
深刻な社会問題になっている「地方の人口減少」と「農家の担い手不足」。この二つをいっぺんに解決させる取り組みをしている自治体がある。宮崎県川南町は移住支援、農業研修、販路の確保といった手厚いサポートで、成果を上げ始めている。人口1万5千人の小さな町の取り組みは、全国のモデルケースとなるのか。現地を取材した。(文・写真/ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
福岡のすれ違い生活から農の暮らしへ
宮崎空港から車で北上すること1時間超。宮崎県中東部の川南町(かわみなみちょう)は、緑あふれる茶畑が広がり、丘の上からは海も望める。 この時期、町内のビニールハウスではピーマンの収穫が行われていた。 「特に忙しい4~5月は、朝の6時から夜の7時までひたすら収穫しています」 こう語るのはピーマン農家の保坂政孝さん(40)だ。
福岡県出身で高校卒業後、県内のIT企業で営業の仕事をしていた。30代半ばを過ぎたころ、仕事や生活スタイルを見直すことにした。 「当時は忙しくて夜遅くまで働いていました。一方、妻はパン屋で働いていたので朝が早い。一緒に生活しているのにほとんど顔を合わせる時間がなく、『このままでは生活が行き詰まってしまう』と思い、2017年頃から移住を考えたんです」 具体的な場所までは考えていなかったが、福岡との距離から宮崎が候補に挙がり、県の移住センターを夫婦で訪ねた。そこで、川南町独自の新規就農制度が始まることを知った。農業は夫婦とも未経験だったが、「夫婦でできる」ことに魅力を感じた。 妻の美幸さん(36)は「『あなたは絶対農業なんてできないよ』と言っていました」と笑う。それでも、「研修制度の1期生だからしっかり面倒を見てくれるはず」という期待もあり、2018年春、夫婦での移住に踏み切った。
現在は二棟のピーマンのハウスをもち、農家として生計を立てている。 「ピーマンは同じ場所で同じ苗を植えても、育てる人によって育ち方が全然違うんです。本当に奥が深くて、すごくやりがいがあります」 かつてのすれ違い生活が一変し、ともに協力しながらピーマンを育てる毎日を、保坂さん夫妻は充実感に満ちた表情で語った。