岩石から生き物まで 何でも透けるほど薄くする「薄片技術」の達人
岩石からヒトデなどの生物まで。約0・02~0・03ミリの極限まで薄く研磨する薄片(はくへん)技術で注目される会社が田尻薄片製作所(東大阪市)だ。技術力の高さが認められ、2025年大阪・関西万博での展示が決まった。 【写真】なんでも薄くする田尻薄片製作所 製作しているのは田尻(本名・田中)理恵さん(67)。薄片とは地質学で主に使われ、岩石などを光が透過するほど薄くすることで顕微鏡での観察を可能にする方法。 最初に試料の岩石を消しゴム大ほどの立方体に電動カッターで切り、縦28ミリ、横48ミリの透明なガラスに岩石を貼り付ける。円盤状の研磨機で少しづつ研磨し、最後は磨き粉を使って手作業で仕上げる。現在、日本では数十人しか薄片技術者はいないという。 田尻さんは幼い頃から石が好きで大学では地質学を学んだ。卒業後、東京の国立科学博物館に非常勤職員として採用されて薄片技術を学んだ。出産や育児などで離職したが、薄片の世界への思いは捨てがたく、大学などで再度、薄片技術者として腕を磨いてきた。 地質学以外でも使用できる薄片を作る可能性を研究していた田尻さんは、10年に生物の組織内の水分を樹脂に置き換えることで固くしてそのまま研磨できる技術を確立した。 16年に親の介護で東大阪市に戻り、自宅ガレージで田尻薄片製作所を開業。日本ではまだ珍しい生物組織の薄片を作れる技術者として、研究者と組んで尿路結石の薄片や人の歯の薄片などを作製し、医学分野でも活躍している。 現在はカーボンファイバーやコンクリートなどの工業製品の薄片も作り、研究に貢献している田尻さんの目標は「若手に薄片技術を継承したいので、ぜひ一般の人にも薄片に興味を持ってもらいたい」と話す。 万博では大阪ヘルスケアパビリオンで7月8~14日に展示される。【小関勉】