新川帆立「多くの人にとって“永田町”は遠い存在。でも〈それは女性ばかりが困っているよね〉は永田町も一緒だった」
◆「それは女性ばかりが困っているよね」は 永田町でも一緒だった 私が今回この題材に向かったのは、性差別について正面から書くためでした。2023年度ジェンダーギャップ指数125位と過去最低を更新した日本で、経済的に豊かで、社会的地位のある女性も差別に直面したことがあるのではないか。日本で一番ハイキャリアな女性は誰か?と考え、国会議員を主人公のひとりにしました。 けれど取材中は、「女性ということで不利益を受けたことはありますか?」という質問は一切しませんでした。それは単純に、その人はどういう人か、何が大変で、どんな時、うれしいと思うのかなど、「その人自身を知りたい」ということが取材の目的だったからです。さらに女性議員を前に、女性ならではの話を聞こうというのも何か違う気がしたからです。 けれど女性差別に関するエピソードは、女性議員の方々のお話のなかで自然と出てきました。男性有権者からの嫌がらせ、出産、育児と選挙の時期がぶつかると、どうすればいいのかわからない、ということをはじめ、「それは実際、女性ばかりが困っているよね」というエピソードがたくさんあって。そしてそのひとつひとつが、「これは政治家だけに限らない」ということばかりでした。 議員さんたちは遠い存在だと思っていたけれど、私も、弁護士や企業法務の仕事、そして作家として働いてきたなか、同じようなことで悩んできました。読者さんもきっとそう思われるだろうなと思ったとき、「この小説は書ける!」と確信しました。
◆自分を見失ってしまった人が ひと踏ん張りできるエネルギー源に 本作には、元アナウンサーで、義父のサポートと子育て、主婦業に奮闘しながら市議会議員をつとめる間橋みゆきという地方議員が登場してきます。普通の暮らしのなかで議員として成長していく間橋さんは、「政治ってこんなに身近なものなんだ」ということを体現するキャラクターです。 私は間橋さんの独白として書いた「自分を取り囲むピースが、自分のかたちを決めてしまっている。世間の扱いが先に来て、わずかに残った隙間に、体を無理やり合わせておさまっている」という言葉が気に入っているんです。間橋さんのように気が利いて、全方位的に対応できるがゆえ、便利屋さんのようになってしまう女性が私の周りには結構多くて。 他人の求めに応えるあまり、「自分が本当にやりたいことって何だっけ?」とわからなくなってしまうことがある。彼女たちが現状から一歩踏みだし、より幸せになるにはどうしたらいいのだろうと常々考えているんです。それはきっと読者さんたちのなかにもある気持ちだと思います。 どうすれば、自分を出すためにひと踏ん張りできるか。言い換えれば「強くなれるのか」。本作は、そのひと踏ん張りするときのエネルギー源になればいいなと思っています。
新川帆立