新川帆立「多くの人にとって“永田町”は遠い存在。でも〈それは女性ばかりが困っているよね〉は永田町も一緒だった」
◆インタビューのなかで察知 国会議員の卓越した“バランス感覚” “憤慨おばさん”こと、野党第一党の国会議員・高月馨、“お嬢”と呼ばれる与党の二世議員・朝沼侑子、朝沼の婚約者である政界のプリンス・三好顕太郎をはじめ、登場人物には、私が取材で感じたその「行間」のようなものを反映させていきました。議員の皆さんは確固とした自身の意見や政策を持ち、それを押し通すことをしつつも、一方、選挙で勝たなければいけないので、自分が他人からどう見えているか、ということも強く意識されている。政治家というのは、そうしたアンビバレントな要求が自分のなかでぶつかる仕事。取材では、そのバランスを自然に取っていらっしゃる方ばかりだなと感じました。そして自分のやりたいことが、何をすれば通るのかというパズルが、権力構造のなかで瞬時に解ける方ばかりだなとも。 登場人物に、“政治家の独特の勘”を感じるという感想をいただくことが多いのですが、それは実際にお会いした議員さんたちが持つ、そうしたバランス感覚みたいなものから現れてきたのだと思います。 私も小説を書くうえで、自分が書きたいことと、読者さんが何を読みたいのか、そのバランスの取り方について常に考えているので、ステージは違うけど、同じような思考をしている、面白いなと感じました。
◆政治ニュースの受け止め方が変化した それを読者さんにも体感してほしい 本作では政治理論の抽象的なところではなく、選挙期間中の足の疲れやお腹の減り具合、地元と中央を頻繁に行き来する移動距離、睡眠時間など、具体的な数字を出し、生身の身体に近いところを書きたいと思いました。そうしたリアルを伺っていくなかで、耳に入ってくる政治ニュースについて、「これはきっとこういうことがあったのだろうな」「こんなことがあったのかも?」と受け止め方が変わっていきました。 遺書を残し、自殺した“お嬢”こと、朝沼議員の死の真相を、高月とその秘書・沢村明美とともに追う新聞社政治部記者・和田山怜奈が、与党のドンをはじめ、政治家への取材を重ねていくシーンが、本作には登場していきますが、そのなかに、外には一切出してはいけない「オフレコ発言」というものが出てきます。 本作の執筆中、政治家の方が性的マイノリティの方に対する不適切発言をオフレコの空間で話し、それを新聞社の記者が記事として出したことがありました。世間では賛否両論でしたが、取材をする以前なら、政治家がそういうことを言ったことには関心が向いても、その記事を出した記者の決意も、記者と政治家の関係もよくわからなかったと思うんです。取材をした結果、そこには政治家と記者との化かしあいがあり、想像ではありますが、「この記者さんは、記事を出すときに上司を説得したんだろうな」とか、「報じられた政治家は、その記者を今後、敵とみなすのか、それとも“まぁまぁ”とおおらかに付き合っていくのか」という風に、人間関係として捉えられることができるようになりました。読者さんも本作を読んだ後、そういう感じになっていただけたらいいなと思いつつ執筆を進めました。