「膨大なアート」を受け継いだ二人が語る、コレクションとその未来
アートとビジネスで発想は繋がっている
田口:そういう「ミッシングピースをどうしても入れたい」というの、ありますよね。ベネッセハウス(直島)の展示は変えられたりしているんですか? 福武:BASNではアーティストにコミッションワークを依頼することが多いのですが、お互いをある程度知る前にアーティストにいきなりお願いするのも難しいので、コミュニケーションや関係づくりの一環として毎年定期的に購入しています。それらの作品を展示する場所として、今はベネッセハウスが主要な役割を果たしています。 次の大きな取り組みとしては、2025年に新しい美術館がオープンします。直島ではこれまではほとんど作品に動きがなかったのですが、ここでは随時作品をアップデートしていく予定です。 田口:タグチ・アートコレクションは対照的で、そもそも常設の展示スペースを持っていません。また、パブリック思考というか“公開する前提”で収集を重ねているという点がコレクションの特徴でもあります。コレクターの方々はご自分の感性に重点を置いて購入作品を決めている人も少なくないですが、うちは作品を家に飾って愛でるみたいな趣味はなく、いい意味でセンスがないというか(笑)。 何より「人に見てもらってなんぼ」という発想なのですが、それは、父のマーケットアウト的なビジネススタイルから来ているのでしょうね。場所を持たずにモノだけ持つというのも、工場を保有せずに生産体制を構築する“持たざる経営”に通じています。アートとビジネスで、完全に父の発想は繋がっていると思います。 また、第三者の意見を積極的に取り入れながら作品を選んでいるのもユニークかもしれません。アートアドバイザーとして、当初は広本伸幸さんに、現在はアート・オフィス・シオバラの塩原将志さんにお世話になっています。 家の壁にかけようとか思わないので、作品のサイズも関係なく、だから大きな作品が多いんです。私が参画してからは、意識的なものではないのですが、映像作品や写真作品の数はだいぶ増えました。 福武:美和さんや僕も代替わりしつつあるわけですが、周りでも自ら起業して30代、40代で財を成し、ビジネスの世界に軸足を置いたまま、アートをサポートする人が昨今増えていっているのは面白い傾向だと思います。 と言うのも、引退した人がパトロンなのか、現役の経営者がサポートするのかでは、さまざまな違いが生まれてくるだろうなと思っています。ビジネス的な観点がアーティストサイドに与える影響ももちろん、アートが事業や経営者の思想に与えるインパクトも大きくなるのではないでしょうか。