「集金総額100億円以上」「御曹司も被害」疑惑の巨額投資事件、富裕層も出し抜かれた巧妙な手口とは?
気鋭のノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。年老いた富裕層たちを取り囲む人々の中には、悪意を持って老後資金を奪い取ろうとする人々の姿もあった。本稿では、元「週刊文春」記者でライターの坂田拓也氏に、富裕層の資産を狙う悪い奴らの、巧みな手法について寄稿いただいた。(取材・文:坂田拓也、構成:ダイヤモンド社書籍編集局) ● 全然「OK」じゃない 巨額投資事件 「ポンジスキーム」と呼ばれる投資詐欺の被害に遭う人が後を絶たない。 アフリカの金鉱山経営、メタバース(仮想空間)事業への参入、またはインサイダー取引きまがいの投資など、様々な事業を名目に高配当を謳って投資を募る。 投資家たちは高配当に釣られて投資するが、実は事業の実態すらないことがほとんどだ。 そして、新たに投資されたカネを既存の投資家へ分配することで「利益」が出ているように見せかける。だが運用の実態はないためカネが回らなくなり、多くの場合は数年のうちに破たんする。 高齢者、主婦など特定の層がターゲットになることもあるが、中には著名人を含む富裕層が被害に遭うこともある。 その1つが、Q&A形式のコミュニティサイト「OKWAVE」などを運営するオウケイウェイブが巨額のカネを失った事件だ。 この事件では、大手流通業創業家の御曹司や著名な上場企業の元取締役会議長、医師、税理士、外国人の弁護士など、名だたる人たちが巨額の資金を失った。 2022年4月、オウケイウェイブが約49億円の債権回収不能を発表したことで発覚した事件だった。 ● 「特別枠」を売り出す 上智大卒インド人経営者 2020年春、オウケイウェイブは事業を売却して得た資金の運用先を探していた。 その時紹介されたのが、インド人のスニール・ジー・サドワニ氏が代表を務めるRaging Bull(レイジング・ブル)社だった。 日本で生まれたサドワニ氏は、上智大学を卒業後、投資会社を経営。物腰も大変柔らかく、怪しげな様子は全くなかったという。 レイジング社はオウケイウェイブの担当者に、「新規上場株を運用できる“特別枠”があり、売却利益を投資家に分配している」と説明。これまで投資した銘柄と価格の推移を示した資料を見せた。実際に投資している人たちの名前も挙げ、社会的地位の高い人物がこぞって参入していることをアピールしたのだった。 オウケイウェイブは検討の末、2021年4月に約3億4000万円を投資。すると、2カ月半後にレイジング社から約4億9000万円が分配された。なんと44%もの利益が出たのだ。 続いて7月以降4回に分けて計30億円を投資。すると、3カ月後に約35億円が分配された。次に約37億円を投資して……と、それまでの利益を加えて投資金額を増やしていった。 しかし、突如レイジング社が破たん。投資した約49億円が回収不能となった。 後に行われた第三者委員会の調査報告書では、レイジング社はそもそも新規上場株の運用などは行っておらず、「その全てが架空のものであった」と結論づけられた。 こうして投資を募る時、「○○さんや××さんも投資しています」と、社会的地位の高い人や著名人の名を挙げることがある。多くの場合その事実はなく、虚偽であることがほとんどだ。 しかしこのケースでは、社会的地位の高い人、富裕層、企業、そして投資のプロであるはずの投資ファンドまでが実際に投資していた。そして被害者であるはずの彼らが広告塔となることで新たな富裕層が次々と投資に乗り出したのである。