「集金総額100億円以上」「御曹司も被害」疑惑の巨額投資事件、富裕層も出し抜かれた巧妙な手口とは?
● 被害に遭った「投資家リスト」 手元にある、関係者が作成した「投資家リスト」には、「氏名」はもちろん、「投資した累計金額」「分配された金額」までがズラリと並んでいる。 その資料によると大手流通業創業家の御曹司は、3億円を投資して全額を失った。上場企業の元取締役会議長は計1億7000万円あまりを投資して、得られた利益1億1000万円を差し引いた約6000万円を失っていた。 財界人だけではない。東京都の医療法人理事長は、法人と個人で投資して約3億3000万円を失い、著書もある千葉県の産婦人科医も法人と個人で投資して約4億2000万円を失っていた。 中には、事件後に破産した人や失踪した人もいる。 大手証券会社出身者が運営していた投資ファンドは実に約66億円を投資し、得られた利益約45億円を差し引いて21億円もの資産を失っていた。この投資ファンドは今年10月に破たんしている。 一流外資系証券会社出身で投資会社を経営し、数年前に大企業買収に名乗りを上げてニュースにもなった人物も被害者の一人だ。今年初めに失踪騒ぎを起こしたが、この事件では1億円を投資して全額を失っていた。 ● 逃げ切った「事情通」たち 一方、利益を得て逃げ切った人もいる。 前述したように、投資詐欺は新たに投資されたカネを既存の投資家へ分配するだけの自転車操業である。見せかけの「利益」を分配するが、実際に運用を行っていないためカネが回らなくなり、やがて破たんする。 しかし破たんするまで高額の分配を行うため、早い段階で投資した人たちは利益を得て逃げ切ることができる。 レイジングブル社のケースでも同様だ。結果として数十人は逃げ切った。 上場企業のオーナー、大手商社出身者が運営する事業再生ファンド、投資スクール運営会社などは10億円以上の利益を得た。 また、サドワニ氏が得た約8億3000万円を始めとして、サドワニ氏の周辺も莫大な利益を得ていた。 米国の大手IT企業日本法人の取締役を務めた人物は3億3000万円、映像プロデューサーも3億3000万円の利益を得た。 本人たちが認めたわけではないが、「投資家リスト」に掲載された個人と法人は合わせて約250に上る。1人が法人と個人の名義で投資している場合を考えても、少なくとも100人前後の人が投資して、100億円を軽く超えるカネが集められたと見られる。 逃げ切った人たちは事情に通じていたと思われるごく少数であり、多くの人が莫大な資産を失った。 ● 投資詐欺は「泣き寝入り」 この事件は巨額の被害となったが、投資詐欺が刑事事件化することは稀だ。 投資詐欺を多く取材したライターの横関寿寛氏はこう話す。 「訴えたところで、金が返ってくる可能性はほぼありません。欲にくらんでカネを出したという恥をさらすだけになるため、皆泣き寝入りです。それに、詐欺で刑事告訴するためには、騙す意図があったという『故意』の証明が必要です。このハードルは高く、警察は受理すらしてくれないこともほとんどです。 10億円、20億円集めた話はザラにあるし、100億円クラスのカネを集めた詐欺も何回か取材しましたが多くは立件されませんでした。 低金利の下で、10%、20%、まして40%を超える配当が出る投資なんてあり得ません。この一言に尽きますが、最近はインターネットを介した投資詐欺が主流となり、簡単にカネを出す人が増えた印象です」 レイジングブル社のケースは、オウケイウェイブが巨額損失の公表に追い込まれたこともあり刑事告訴された模様だ。しかし当のサドワニ氏は日本を出国したと見られ、発覚から2年半が過ぎた現在も本件は立件されず、事件は疑惑のままで終わっている。 坂田拓也(さかた・たくや) 大分市出身。大学在学中に1992年「サンパウロ新聞」(サンパウロ)、卒業後1997年から2004年「財界展望」編集記者、2008年から2018年まで「週刊文春」記者、現在はフリーランスのライターとしてマネー、経済分野を中心に幅広く執筆を行う。著書に『国税OBだけが知っている失敗しない相続』(文春新書)、取材・構成『日本人の給料』(宝島社新書)などがある。
坂田拓也