新型核燃料棒の研究拠点、東北大に新設へ…米国の試験炉頼み脱却で国際競争力を強化
政府が来年3月にも、東北大(仙台市)に新型の核燃料棒の研究拠点を新設することがわかった。新型の核燃料棒は原子力発電所の安全性向上に役立つもので、既存の原発に導入していく。エネルギー安全保障の観点から政府は核燃料棒の国産化を重視している。 【図】一目でわかる…事故耐性燃料(ATF)の国内拠点のイメージ
新型の核燃料棒は、事故耐性燃料(ATF)と呼ばれる。現行の核燃料棒に比べて耐熱性に優れており、水素爆発や炉心溶融(メルトダウン)など重大事故の発生・拡大を抑える効果が期待できる。米国をはじめ、中国やロシア、韓国などが開発にしのぎを削っている。
日本の課題は、ATFの安全性や耐久性を実証する試験炉がなく、技術試験を米国の試験炉に頼らざるを得ないことだ。日本原子力研究開発機構(JAEA)が米アイダホ国立研究所などの試験炉で技術試験を進めているが、計画は試験炉に空きが出るかなど米国側の都合に左右されやすい。
そこで資源エネルギー庁は2024年度までの3年間で計約1・1億円を投じ、JAEAに研究拠点の新設を委託。東北大の「先端量子ビーム科学研究センター」内に設置することになった。米国の試験炉だけではなく、日本国内でも技術試験ができる体制を整える。
JAEAはセンター内で、高温・高圧下の原子炉の状況を再現した装置を整備する。この装置ではウランを収める被覆管(ひふくかん)と同じ材料の小片に放射線を照射し、材料の劣化や腐食の進み具合などを調べる。技術試験の最初のデータは25年度内に得る予定だ。
研究拠点が稼働すれば、米国の試験炉で3~4年かかる試験データを数か月で取得できる可能性がある。米国での技術試験も並行して継続し、計画では35年以降となっている原発への導入を早めることを目指す。
開発チームの相馬康孝・JAEA研究副主幹は「研究拠点を有効活用し、ATFの開発を自律的に進める体制を整えたい」と話している。
◆事故耐性燃料(ATF)=ATFは「Accident Tolerant Fuel」の略。2011年の東京電力福島第一原発事故では、核燃料のウランを収める被覆管が水蒸気と反応して大量の水素が発生し、水素爆発が引き起こされた。この教訓を踏まえ、世界的に水素爆発を抑制するための研究開発が始まった。日本は被覆管の素材について、現行のジルコニウム合金をクロムでコーティングするか、ステンレス鋼かセラミックスに変更することを検討している。