アギーレジャパンが抱える死角
アギーレ監督が掲げる「4‐3‐3システム」は、日本人には馴染みが薄い。J1では10試合連続無敗を継続中のFC東京が今シーズンから採用しているくらいだが、育成年代からダブルボランチの下で戦ってきた経験に慣れ切っているためか、FC東京も開幕からしばらくは攻守において精彩を欠いた。 システムという「形」から入ってしまう傾向が強く、フレキシブルさに欠ける日本人の特性は、守備面だけでなく攻撃面にも決して好ましくない影響を及ぼしている。ベネズエラ戦で日本が獲得したコーナーキックは、前後半を通じて異例の「ゼロ本」だった。水沼が言う。「相手を焦らせる仕掛けや、深いところまで攻めてからのパスやクロス、あるいは際どいシュートがあまりにも少ないということ。実際問題として、スピードを伴った速攻もできていない。柴崎、大迫、森重とワンタッチのパスをポンポンとつないで柿谷がシュートを放った前半38分と、左サイドを抜け出した岡崎のクロスを大きな弧を描きながら長い距離を走ってきた柴崎がボレーで決めた後半22分だけだったと言っていい。本田が何回かランニングで背後を取るシーンがあったけれども、要は長いパスでしか仕掛けられていない。いるべきところに選手がいない、動くべきところで選手が動かないから、ショートパスで相手の背後を取ることができない。そこには走る要素も加わってくる。掲げている『堅守速攻』は決して悪い戦い方ではないけれども、まだまだ表現できない段階にあると言っていい」。 日本代表は年内に4つの国際親善試合を予定していて、10月10日にデンカビッグスワンスタジアム(新潟)でジャマイカ代表と戦った後はシンガポールに舞台を移し、14日のブラジル代表戦に臨む。目指すべき戦い方について、アギーレ監督はベネズエラ戦後にあらためてこう明言している。「まずか堅い守備ができないといけない。そして。日本人の持ち味である速さをどう生かすかを考える。私が目指すのは上位に行けるスタイルだ。素晴らしいスタイルと言われても、FIFAランキングが44位ならばそれはよくない。よくないスタイルと言われても、20位以内に行きたい」。 目指すスタイルはアルベルト・ザッケローニ前監督が掲げた「主導権を握るポゼッションスタイル」ではなく、あくまでも「堅守速攻」となる。ならば指揮官のトップダウンで守り方の方向性を明確にして、攻撃面に関しては選手たち感じている戸惑いを取り除いていく必要がある。「アギーレ監督が9月の2試合をどのように分析するのか。掲げるシステムと照らし合わせながら、この選手はどのようなプレーをするのか、このポジションにこの選手が入ればどのようなことが起こるのか、という視点で今後のJリーグを視察していくのではないか。呼ばれるメンバーが変わってくる可能性が十分にある中で、特に守備については落とし込める時間は十分にあると思っている」。 こう語る水沼氏を含めて、日本中のファンやサポーターがブラジルで一敗地にまみれた日本代表の再建を託された55歳のメキシコ人指揮官の手腕に注目している。 (文責・藤江直人/スポーツライター)