アギーレジャパンが抱える死角
アギーレ監督は最終ラインの前にアンカーを置くシステムを採用し、2試合を通じて本来はセンターバックの森重真人(FC東京)を指名している。森重の前方に2人のインサイドハーフが並ぶ形で構成される中盤は、状況によってボールサイドへの「横ずれ」を繰り返さなければならない。この作業では、3人が意識を共有することが極めて重要になる。相手を見るのか、あるいはスペースを見るのかが統一されなければ、ただでさえ横幅68mのピッチを3人で埋めなければならない中盤、特に森重の両脇に大きなスペースが生まれるリスクを常に抱えてしまう。FW本田圭佑(ACミラン)をはじめとする両ワイドの選手たちが下りてきて、中盤のスペースを埋める約束事も徹底されていない。 ベネズエラ戦では、中盤に生じたスペースを何回も突かれて決定機を作られた。アギーレ監督は「ヒントは与えるが、それをピッチ上で発展させるのは選手だ」と『自由』をキーワードとして設定しているが、前出の水沼氏は「攻撃はともかく、守備に関しては『自由』ではいけない」と指摘する。「相手にボールを奪われたとき、あるいは相手にボールを持たれているときに戻るべきポジションは、おそらくはアギーレ監督から落とし込まれていると思う。それでも、選手の判断に迷いが見て取れる場面が多いと言わざるを得ない。チームとして『こういう守り方をします』という方針が明確に打ち出されれば、守備は十分に改善することができる。『4‐3‐3システム』で相手とスペースのどちらをケアするのかは、チームの戦い方次第で変わる。例えばインサイドハーフが相手のダブルボランチにつくのであれば、ワイドの選手たちが戻るべきポジションも決まってくる。アギーレ監督がどのようなアプローチをするのかはわからないけれども、安定した戦いを演じるためには早急に改善すべき点であることは間違いない」。 一方で指揮官の戦術うんぬんを超えた問題も生じている。ウルグアイ戦に続いて、ビルドアップの際の横パスをカットされる場面がベネズエラ戦でも目立った。例えば前半29分。MF細貝萌(ヘルタ・ベルリン)がDF吉田麻也(サウサンプトン)に出した中途半端な横パスを狙われ、ゴール前へ抜け出したマリオ・ロンドンにフリーの状態でシュートを打たれた場面だ。このときも伸ばした左足にシュートを当てて、何とかコーナーキックに逃れた川島のビッグプレーに救われたが、水沼氏は選手たちのポジショニングの悪さを問題視する。 「最終ラインで横パスを回す際は、誰か一人が下がり目に位置する、いわゆる『深み』を取らなければならないのに、ビルドアップの際に最終ラインに下がってくるアンカーの森重を含めて、ほぼ横一列に並んでいることが少なくない。厳しい言い方になるけれども、代表に選ばれる選手ならば監督から『深み』を取れと言われる前に、自分たちの判断でできなければおかしい。彼らの判断で『深み』を取らないのであれば、もっと細心の注意を払ってボールを回すか、早く前へ入れないと。マンツーマンで守っている相手のセットプレーの際に、マークすべき選手をいとも簡単にフリーにしてしまうシーンが多い点を含めて、結局は個人戦術のレベルも問われてくると言わざるを得ない」。